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しっかり学ぼう!働くときの基礎知識

事業主・労務管理担当の方へ

テレワーク

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テレワークは、インターネットなどを活用し自宅などで仕事をするものです。テレワークは、働く時間や場所を柔軟に活用することのできる働き方であると同時に、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」にも対応したものです。
テレワークは、使用者と労働者の双方にメリットがあります。使用者の主なメリットは、①業務効率化による生産性の向上、②育児・介護を理由とした労働者の離職の防止、遠隔地の優秀な人材の確保、③オフィスコストの削減です。労働者の主なメリットは、①通勤時間の短縮、これに伴う心身の負担の軽減、②仕事に集中できる環境での業務の実施による業務効率化、これに伴う時間外労働の削減、③育児・介護と仕事の両立の一助となり仕事と生活の調和を図ることが可能となることです。
テレワークの導入と実施に当たって注意しておかなければならないことは、労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用されることです。テレワークの導入に当たっては、あらかじめ労使で十分に話し合い、事業場におけるルールを定めることが重要で、就業規則の作成義務のある事業場にあってはルールを就業規則に定める必要があります。この他、テレワークの円滑な導入と実施に当たっては、テレワークの対象者の選定方法、テレワークにおける人事評価の在り方、テレワークに要する費用負担の取扱い、労働時間管理の方法、テレワークにおける労働安全衛生の確保などの留意事項があります。
厚生労働省は、令和3年3月にテレワークガイドラインを改定し、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するため、テレワークの導入及び実施に当たり、労務管理を中心に、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取組等を明らかにしています。

1テレワークの形態

テレワークは働く場所で分けると、①自宅で働く在宅勤務、②移動中や出先で働くモバイル勤務、 ③本拠地以外の施設で働くサテライトオフィス勤務があります。

テレワークの形態を知りたい場合

①在宅勤務
在宅勤務は、所属する勤務先から離れて、自宅を就業場所とする働き方です。就業形態によって、雇用型テレワークと自営型テレワークがあります。
在宅勤務というと、全く出社しないで、毎日自宅で仕事をするイメージを持つ人も多いと思います。しかし、日本で在宅勤務制度を導入している企業では、週1~2日の頻度で実施する場合が一般的です。
最近では、1日の一部を在宅勤務で行う、「部分在宅勤務(部分利用)」を導入している企業も少なくありません。子どもの学校のPTAに出席する場合や役所への手続きをする場合など、半日休暇や時間休暇と組み合わせることにより、従業員の利便性が高まります。また、例えば、早朝に海外とのWeb会議をして、子どもを保育園に送ってから遅めの出社をするという働き方もできます。
②モバイル勤務
移動中の交通機関や顧客先、カフェ、ホテル、空港のラウンジなどを就業場所とする働き方です。営業職など頻繁に外出する業務の場合、隙間時間・待機時間に効率的に業務を行うことができます。また、直行・直帰を活用すれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなく、ワーク・ライフ・バランス向上にも効果があります。
③サテライトオフィス勤務
本拠地のオフィスから離れたところに設置した部門共用オフィスで就業する施設利用型の働き方です。サテライトオフィスには専用型と共用型があります。
専用型は、自社や自社グループ専用で利用するサテライトオフィスです。営業活動中や出張の際に立ち寄って利用する、在宅勤務の代わりに自宅近くのサテライトオフィスで勤務する、などの働き方があります。自社の事業所の中に社内サテライトオフィスを設置する場合と既存の事業所とは別に設置する場合があります。
共用型は、社内専用ではなく、複数の企業や個人事業主が共用するオフィスです。最近ではシェアオフィスまたはコワーキングスペースと呼ぶ場合もあります。当初は、フリーランスや起業家の利用が多かったのですが、最近は企業がこれらの施設と契約して、従業員に利用させるケースも増えつつあります
*ワーケーションとは
「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごす。

2テレワークにおけるルール・労務管理等

1 テレワーク導入に際してのルール制定、労働契約・就業規則の見直し

テレワークの導入に当たっては、あらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めることが重要です。就業規則の作成義務のある事業場にあっては、テレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知する必要があります。法的に就業規則の作成義務がない事業場であっても、テレワークのルールについて、就業規則に準ずるものを作成したり、労使協定を結んだりすることが望ましいです。この際、テレワークを行う場所について、労働者が専らモバイル勤務をする場合や、いわゆるワーケーションの場合など、労働者の都合に合わせて柔軟に選択する場合には、使用者の許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」においてテレワークが可能である旨を定めておくことが考えられます。

テレワークを行う場所の如何にかかわらず、テレワークを行う労働者の属する事業場がある都道府県の最低賃金が適用されることに留意する必要があります。
使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりません。その際、労働者に対し就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所として上記の「使用者が許可する場所」も含め自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。また、労働者が就労の開始後にテレワークを行うことを予定している場合には、使用者は、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行うことが可能である場所を明示しておくことが望ましいです。
労働契約や就業規則において定められている勤務場所や業務遂行方法の範囲を超えて使用者が労働者にテレワークを行わせる場合には、労働者本人の合意を得た上での労働契約の変更が必要であることに留意が必要です。

2 テレワークの対象業務

テレワークが難しいと考えられる業種・職種であっても個別の業務によっては実施できる場合があります。また、それまでの業務の在り方を前提にテレワークの対象業務を選定するのではなく、仕事内容の見直しを行うことが有用な場合があります。テレワークに向かないと安易に結論づけるのではなく、業務遂行の方法の見直しを検討することが望まれます。業務の見直しとしては、不必要な押印や署名の廃止、書類のペーパーレス化、決裁の電子化、オンライン会議の導入等が有効です。なお、オフィスに出勤する労働者に業務が偏らないよう、留意することが必要です。

3 テレワークの対象者

テレワークの実施に当たっては、労働者がテレワークを希望する場合や、使用者が指示する場合が考えられます。いずれにしても、テレワークの対象者を決めるに当たっては、労働者本人の納得の上で、対応を図る必要があります。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な待遇差については、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法により禁止されており、雇用形態のみを理由にテレワークの対象から除外することは、これらの法律に違反する可能性があります。正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないようにしなければなりません。
雇用形態にかかわらず、業務等の要因により、企業内でテレワークを実施できる者に偏りが生ずる場合においては、労働者間で納得感を得られるよう、テレワークを実施する者の優先順位やテレワークを行う頻度等について、あらかじめ労使で十分に話し合うことが望ましいです。
在宅での勤務は生活と仕事の線引きが困難になる等の理由から在宅勤務を希望しない労働者については、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務を利用することも考えられます。
新入社員、中途採用社員及び異動直後の社員は、業務について上司や同僚等に聞きたいことが多く、不安が大きい場合がある。このため、テレワークの実施に当たっては、コミュニケーションの円滑化に配慮をすることが望まれます。
労働契約法の規定により、労働契約や就業規則において定められている勤務場所や業務遂行方法の範囲を超えて使用者が労働者にテレワークを行わせる場合には、労働者本人の合意を得た上での労働契約の変更が必要であることは、既に述べた通りです。

4 テレワークにおける人事評価制度

テレワークでは個々の労働者の業務遂行状況や発揮される能力を把握しづらいとの指摘もありますが、人事評価は、企業が労働者に対してどのような働きを求め、どう処遇に反映するかといった観点から、適切に実施することが基本であり、テレワークを行っているか、出社しているかによって変わるものではありません。
テレワークを導入する場合、人事評価制度の変更は必ずしも必要ではありませんが、テレワーク勤務を行う場合の人事評価方法とオフィス勤務の場合の評価方法を区別する場合、誰もがテレワークを行えるようにすることの妨げとならないように留意しつつ設定することが重要です。また、あらかじめ労働者に対してその内容を説明することが望ましいです。
テレワークを行う者が、そのことを理由として、テレワークを行っていない他の労働者と比較して、不利な評価を受けることは不適切な人事評価といえます。
非対面の働き方において適正な評価を実施できるよう、人事評価の評価者に対する訓練の機会を設ける等の工夫が必要です。また、上司は、部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示しておくとともに、必要に応じて達成状況について共通認識を持つための機会を柔軟に設けることが望ましいです。
この他、テレワークを実施している者に対し、時間外、休日等のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価ではありません。

5 テレワークに要する費用負担の取扱い

テレワークに関わる費用については、労働者に過度な負担が生じることは望ましくありません。労使のどちらがどのように負担するか等は、個々の企業ごとの業務内容・物品の貸与状況により様々であり、労使でよく話し合って決めていただくようお願いします。その上で、費用負担について、テレワークを導入する前に、明確なルールをつくり、労働者に対して、丁寧に説明することが望ましいです。

テレワークの導入による費用負担について知りたい場合

<就業規則での定めについて>
労働基準法89条1項5号では「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と規定されています。費用負担についてルールを定めた場合、その中で労働者に費用負担をさせると定めている内容は同号に該当するため、就業規則の作成義務を負う使用者は、当該内容について就業規則(その一部としてテレワーク勤務規程等を設けている場合は当該規程等)を作成、変更する必要があります。
就業規則の作成義務がない企業であっても、労働者に費用負担をさせる場合には、労使合意による労働条件の変更が必要です。このような労働契約の変更については、できる限り書面により、その内容を当事者間でよく確認してください。
<費用負担の例について>
テレワークの導入によって、費用が発生する例としては次のようなものが考えられます。
① 情報通信機器の費用
テレワーク導入企業の事例では、パソコン本体や周辺機器、携帯電話、スマートフォンなどについては、会社から貸与しているケースが多く見られます。会社が貸与した場合、全額会社負担としている例が見られます。
② 通信回線費用
①の機器を会社から貸与していることと併せて、通信費用も会社負担としているケースが見られます。
通信費用については、個人の使用と業務使用との切り分けが困難なため、一定額を会社負担としている例が見られます。
③ 文具、備品、宅配便等の費用
文具消耗品については会社が購入した文具消耗品を使用する例もあります。
切手や宅配メール便等は事前に配布できるものはテレワークを行う労働者に渡しておき、会社宛の宅配便は着払いにするなどで対応ができます。やむを得ずテレワークを行う労働者が文具消耗品の購入や宅配メール便の料金を一時立て替えることも考えられますので、この際の精算方法等もルールを定めておくことが重要です。
④ 水道光熱費
自宅の電気、水道などの光熱費も実際には負担が生じますが、業務使用分との切り分けが困難なため、テレワーク勤務手当に含めて支払っている企業も見受けられます。

6 テレワーク状況下における人材育成

テレワークを導入した初期あるいは機材を新規導入したとき等には、必要な研修等を行うことも有用です。企業は、各労働者が自律的に業務を遂行できるよう仕事の進め方の工夫等によって人材の育成に取り組むことが望ましいです。また、労働者が自律的に働くことができるよう、管理職による適切なマネジメントが行われることも重要です。テレワークを実施する際に適切な業務指示ができるようにする等、管理職のマネジメント能力向上に取り組むことも望まれます。例えば、テレワークを行うに当たっては、管理職へのマネジメント研修を行うことや、仕事の進め方として最初に大枠の方針を示す等、部下が自律的に仕事を進めることができるような指示の仕方を可能とすること等が考えられます。

人材育成について知りたい場合

〇テレワークを推進する上で、社内教育等についてもオンラインで実施することも有効です。オンラインでの人材育成は、例えば、「他の社員の営業の姿を大人数の後輩社員がオンラインで見て学ぶ」「動画にしていつでも学べるようにする」等の、オンラインならではの利点を持っているため、その利点を活かす工夫をすることも有用です。

〇テレワークを実施する際には、新たな機器やオンライン会議ツール等を使用する場合があり、一定のスキルの習得が必要となる場合があることから、特にテレワークを導入した初期あるいは機材を新規導入したとき等には、必要な研修等を行うことも有用です。

〇テレワークの特性を踏まえると、勤務する時間帯や自らの健康に十分に注意を払いつつ、作業能率を勘案して、自律的に業務を遂行できることがテレワークの効果的な実施に適しており、企業は、各労働者が自律的に業務を遂行できるよう仕事の進め方の工夫や社内教育等によって人材の育成に取り組むことが望ましい。

3テレワークの時間管理

1 テレワークに活用する労働時間制度

労働基準法には様々な労働時間制度が定められており、全ての労働時間制度でテレワークが実施可能です。このため、テレワーク導入前に採用している労働時間制度を維持したまま、テレワークを行うことが可能です。一方で、テレワークを実施しやすくするために労働時間制度を変更する場合には、労使で話し合い、各々の制度の導入要件に合わせて変更することも可能です。
労働基準法には、労働時間を柔軟に取り扱う制度として、変形労働時間制、フレックスタイム制及び事業場外みなし労働時間制が規定されています。また、裁量労働制及び高度プロフェッショナル制度は、業務遂行の方法、時間等について労働者の自由な選択に委ねることを可能とする制度であり、これらの制度の対象労働者について、テレワークの実施を認めることにより、労働する場所についても労働者の自由な選択に委ねることが考えられます。

【柔軟な労働時間制度の活用について知りたい場合】

1.通常の労働時間制度及び変形労働時間制
通常の労働時間制度及び変形労働時間制においては、始業及び終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要がありますが、テレワークでオフィスに集まらない労働者について必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、その日の所定労働時間はそのままとしつつ、始業及び終業の時刻についてテレワークを行う労働者ごとに自由度を認めることも考えられます。このような場合には、使用者があらかじめ就業規則に定めておくことによって、テレワークを行う際に労働者が始業及び終業の時刻を変更することができるようにすることが可能です
2.フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であり、テレワークになじみやすい制度です。特に、働く場所の柔軟な活用を可能とすることにより、次のように、労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となるといったメリットもあり、フレックスタイム制を活用することによって、労働者の仕事と生活の調和に資することが可能となります。
・在宅勤務の場合に、労働者の生活サイクルに合わせて、始業及び終業の時刻を柔軟に調整することや、オフィス勤務の日は労働時間を長く、一方で在宅勤務の日は労働時間を短くして家庭生活に充てる時間を増やすといった運用が可能
・一定程度労働者が業務から離れる中抜け時間についても、労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり、清算期間の範囲内で他の労働日において労働時間を調整したりすることが可能
・テレワークを行う日についてはコアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)を設けず、オフィスへの出勤を求める必要がある日・時間についてはコアタイムを設けておくなど、企業の実情に応じた柔軟な取扱いも可能
3.事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事することとなる場合に活用できる制度です。テレワークにおいて一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟にテレワークを行うことが可能となります。次の①②をいずれも満たす場合には、この労働時間制度をテレワークに適用することができます。
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。以下の場合については、いずれもこの条件を満たすと認められ、情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはありません。
・ 勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・ 勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
・ 会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。以下の場合については、この条件を満たすと認められます。
・ 使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合

2 テレワークにおける労働時間管理

テレワークの場合における労働時間の管理については、テレワークが本来のオフィス以外の場所で行われるため使用者による現認ができないなど、労働時間の把握に工夫が必要になると考えらます。実際には、テレワーク勤務者から始業時・終業時にメールや電話で上長に連絡し、労働時間を管理する方法をとる企業は多くあります。また、実際に業務を遂行している場面を現認しているわけではありませんので、その際の業務内容について、終業時のメールに作業日報として1日の業務内容をテレワーク勤務者に提出させる運用をとっている企業もあります。

一方で、テレワークは情報通信技術を利用して行われるため、労働時間管理についても情報通信技術を活用して行うこととする等によって、労務管理を円滑に行うことも可能となります。最近ではクラウドによる勤怠管理システムを導入している企業も増えてきました。インターネット経由でクラウド型のシステムを利用でき、オフィスに出社したときと、テレワーク勤務で労働時間の管理方法を変える必要のない利便性があります。

いずれにせよ、使用者がテレワークの場合における労働時間の管理方法をあらかじめ明確にしておくことにより、労働者が安心してテレワークを行うことができるようにするとともに、使用者にとっても労務管理や業務管理を的確に行うことができるようにすることが望ましいです。

【テレワークにおける労働時間の把握について知りたい場合】

テレワークにおける労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も踏まえた使用者の対応として、次の方法によることが考えられます。
1.客観的な記録による把握
適正把握ガイドラインにおいては、使用者が労働時間を把握する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、始業及び終業の時刻を確認すること等が挙げられています。情報通信機器やサテライトオフィスを使用しており、その記録が労働者の始業及び終業の時刻を反映している場合には、客観性を確保しつつ、労務管理を簡便に行う方法として、次の対応が考えられます。
①労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等により、労働時間を把握すること
②使用者が労働者の入退場の記録を把握することができるサテライトオフィスにおいてテレワークを行う場合には、サテライトオフィスへの入退場の記録等により労働時間を把握すること
2.労働者の自己申告による把握
テレワークにおいて、情報通信機器を使用していたとしても、その使用時間の記録が労働者の始業及び終業の時刻を反映できないような場合も考えられます。このような場合に、労働者の自己申告により労働時間を把握することが考えられますが、その場合、使用者は、次のような措置を講ずる必要があります。
①労働者に対して労働時間の実態を記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うことや、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等について十分な説明を行うこと
②労働者からの自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、パソコンの使用状況など客観的な事実と、自己申告された始業・終業時刻との間に著しい乖離があることを把握した場合(※)には、所要の労働時間の補正をすること
③自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
※例えば、申告された時間以外の時間にメールが送信されている、申告された始業・終業時刻の外で長時間パソコンが起動していた記録がある等の事実がある場合。
なお、申告された労働時間が実際の労働時間と異なることをこのような事実により使用者が認識していない場合には、当該申告された労働時間に基づき時間外労働の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払等を行っていれば足りる。
労働者の自己申告により労働時間を簡便に把握する方法としては、例えば一日の終業時に、始業時刻及び終業時刻をメール等にて報告させるといった方法を用いることが考えられる。

◆労働時間制度ごとの留意点
テレワークの場合においても、労働時間の把握に関して、労働時間制度に応じて次のような点に留意することが必要である。
・ フレックスタイム制が適用される場合には、使用者は労働者の労働時間については、適切に把握すること
・ 事業場外みなし労働時間制が適用される場合には、必要に応じて、実態に合ったみなし時間となっているか労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直すこと
・ 裁量労働制が適用される場合には、必要に応じて、業務量が過大又は期限の設定が不適切で労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われていないか、みなし時間と当該業務の遂行に必要とされる時間とに乖離がないか等について労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直すこと

【労働時間に関するテレワークに特有の事象の取扱いについて知りたい場合】

1.中抜け時間
テレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じることが考えられます。このような中抜け時間については、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい。テレワーク中の中抜け時間を把握する場合、その方法として、例えば1日の終業時に、労働者から報告させることが考えられます。
また、テレワーク中の中抜け時間を次にように取扱うことが考えられます。
①中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱う
②中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱う
これらの中抜け時間の取扱いについては、あらかじめ使用者が就業規則等において定めておくことが重要です。
2.勤務時間の一部についてテレワークを行う際の移動時間
例えば、午前中のみ自宅やサテライトオフィスでテレワークを行ったのち、午後からオフィスに出勤する場合など、勤務時間の一部についてテレワークを行う場合が考えられます。こうした場合の就業場所間の移動時間について、労働者による自由利用が保障されている時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられます。
一方で、例えば、テレワーク中の労働者に対して、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当します。
3.休憩時間の取扱い
労働基準法第 34 条第2項は、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定していますが、テレワークを行う労働者について、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能です。
4.時間外・休日労働の労働時間管理
テレワークの場合においても、使用者は時間外・休日労働をさせる場合には、三六協定の締結、届出や割増賃金の支払が必要となり、また、深夜に労働させる場合には、深夜労働に係る割増賃金の支払が必要です。このため、使用者は、労働者の労働時間の状況を適切に把握し、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましいです。
5.長時間労働対策
テレワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、次のようなおそれがあります。
・労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなる。
・業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずる。
このような点に鑑み長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワーク・ライフ・バランスの確保に配慮することが求められます。テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられます。
①メール送付の抑制等
テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効です。メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられます。
②システムへのアクセス制限
テレワークを行う際に、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスする形態をとる場合が多いが、所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することが有効です。
③時間外・休日・所定外深夜労働についての手続
通常のオフィス勤務の場合と同様に、業務の効率化やワーク・ライフ・バランスの実現の観点からテレワークを導入する場合にも、その趣旨を踏まえ、労使の合意により、時間外等の労働が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定することも有効です。この場合には、労使双方において、テレワークの趣旨を十分に共有するとともに、使用者が、テレワークにおける時間外等の労働に関して、一定の時間帯や時間数の設定を行う場合があること、時間外等の労働を行う場合の手続等を就業規則等に明記しておくことや、テレワークを行う労働者に対して、書面等により明示しておくことが有効です。
④長時間労働等を行う労働者への注意喚起
テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・所定外深夜労働が生じた労働者に対して、使用者が注意喚起を行うことが有効です。具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示するような方法が考えられます。
⑤その他
勤務間インターバル制度はテレワークにおいても長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられ、この制度を利用することも考えられる。

4テレワークにおける安全衛生の確保

1 安全衛生関係法令の適用

労働安全衛生法等の関係法令等においては、安全衛生管理体制を確立し、職場における労働者の安全と健康を確保するために必要となる具体的な措置を講ずることを事業者に求めており、自宅等においてテレワークを実施する場合においても、事業者は、これら関係法令等に基づき、労働者の安全と健康の確保のための措置を講ずる必要があります。

【具体的な措置について知りたい場合】

次のような措置の実施により、労働者の安全と健康の確保を図ることが重要です。その際、必要に応じて、情報通信機器を用いてオンラインで実施することも有効です。
・健康相談を行うことが出来る体制の整備(労働安全衛生法第13条の3)
・労働者を雇い入れたとき又は作業内容を変更したときの安全又は衛生のための教育(労働安全衛生法第59条)
・必要な健康診断とその結果等を受けた措置(労働安全衛生法第66条から第66条の7まで)
・過重労働による健康障害を防止するための長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置(労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9)及び面接指導の適切な実施のための労働時間の状況の把握(労働安全衛生法第66条の8の3)、面接指導の適切な実施のための時間外・休日労働時間の算定と産業医への情報提供(労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第52条の2)
・ストレスチェックとその結果等を受けた措置(労働安全衛生法第66条の10)
・労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るために必要な措置(労働安全衛生法第69条)
なお、労働者を雇い入れたとき(雇入れ後にテレワークの実施が予定されているとき)又は労働者の作業内容を変更し、テレワークを初めて行わせるときは、テレワーク作業時の安全衛生に関する事項を含む安全衛生教育を行うことが重要です。 また、一般に、労働者の自宅等におけるテレワークにおいては、危険・有害業務を行うことは通常想定されませんが、行われる場合においては、当該危険・有害業務に係る規定の遵守が必要となります。

2 自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策の留意点

テレワークでは、周囲に上司や同僚がいない環境で働くことになるため、労働者が上司等とコミュニケーションを取りにくい、上司等が労働者の心身の変調に気づきにくいという状況となる場合があります。このような状況のもと、円滑にテレワークを行うためには、事業者は、テレワークガイドライン添付「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト(事業者用)」を活用する等により、健康相談体制の整備や、コミュニケーションの活性化のための措置を実施することが望まれます。また、事業者は、事業場におけるメンタルヘルス対策に関する計画である「心の健康づくり計画」を策定することとなっています(労働者の心の健康の保持増進のための指針)。当該計画の策定に当たっては、テレワークにより生じやすい状況を念頭に置いたメンタルヘルス対策について、衛生委員会等労使による話し合いを踏まえた上で記載し、計画的に取り組むことが望ましいです。

3 自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備の留意点

テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」は一般には適用されないが、安全衛生に配慮したテレワークが実施されるよう、これらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行う労働者に教育・助言等を行い、テレワークガイドライン添付「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」を活用すること等により、自宅等の作業環境に関する状況の報告を求めるとともに、必要な場合には、労使が協力して改善を図る又は自宅以外の場所(サテライトオフィス等)の活用を検討することが重要です。

4 事業者が実施すべき管理に関する事項

事業者は、労働者がテレワークを初めて実施するときは、テレワークガイドライン添付のチェックリストを活用する等により、上記(1)から(3)までが適切に実施されることを労使で確認した上で、作業を行わせることが重要です。
また、事業者による取組が継続的に実施されていること及び自宅等の作業環境が適切に維持されていることを、上記チェックリストを活用する等により、定期的に確認することが望ましいです。

5テレワークにおける労働災害の補償

テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する補償責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません。
在宅勤務を行っている労働者等、テレワークを行う労働者については、この点を十分理解していない可能性もあるため、使用者はこの点を十分周知することが望ましい。
また、使用者は、労働時間の把握において、情報通信機器の使用状況などの客観的な記録や労働者から申告された時間の記録を適切に保存するとともに、労働者が負傷した場合の災害発生状況等について、使用者や医療機関等が正確に把握できるよう、当該状況等を可能な限り記録しておくことを労働者に対して周知することが望ましいです。

6テレワークの際のハラスメントへの対応

事業主は、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等の防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務づけられており、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントを行ってはならない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要があります。

7テレワークの際のセキュリティへの対応

情報セキュリティの観点から全ての業務を一律にテレワークの対象外と判断するのではなく、関連技術の進展状況等を踏まえ、解決方法の検討を行うことや業務毎に個別に判断することが望ましいです。また、企業・労働者が情報セキュリティ対策に不安を感じないよう、総務省が作成している「テレワークセキュリティガイドライン」等を活用した対策の実施や労働者への教育等を行うことが望ましいです。