事業者・労務管理担当の方のQ&A

賃金

貸付金を賃金と相殺することは可能でしょうか?

(1)労基法第17条では、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」と規定されています。この規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあることなどを防止するために定められたものです。ただし、貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものについては、 本条違反とはならないものと解されます。

(2)賃金はその全額を支払わなければならないという「賃金全額払いの原則」が労基法に定められています(同法24条1項)。この規定は、賃金の一部を支払留保することによる労働者の足止めを封じるとともに、労働の対価すべてを労働者に帰属させるために賃金控除を禁止するものです。
また、最高裁は、使用者が労働者に対して債権を持つときであっても、使用者がその債権を一方的に賃金と相殺することは許されないとしています(「日本勧業経済会事件」最判S36.5.31判決)。 これらのことから、使用者が貸付金と賃金を一方的に相殺することはできないものと解されます。

(3)他方、最高裁は、相殺が労働者の自由な意思に基づくと認め得る合理的な理由が客観的に存在する場合には、合意相殺は本条に違反するものではないとしています(「日新製鋼事件」最判H2.11.26判決)。ただし、「同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならない」とされているため、労働者の同意が客観的に確認できるように、合意の書面を取得しておくことが望まれます。

(4)労基法において「賃金全額払の原則」が定められています。他方、賃金の一部控除に関する労使協定を締結した場合には、賃金の一部を控除することができることとされていますが、事理明白なものについてのみ控除が認められることに留意が必要です。

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前借金相殺の禁止(労基法第17条)の例外

労基法では、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」とされていますが、実際上の判定は、前貸しの条件その他の事情を総合的に判断して決定することとしており、例えば、住宅建設資金の融資等については、貸付の原因が真に労働者の便宜のためのものであり、また労働者の申出に基づくものであること、貸付期間は必要を満たし得る範囲であり、貸付金額も1か月の賃金または退職金等の充当によって生活を脅威し得ない程度に返済し得るものであること、返済前であっても退職の自由が制約されていなこと等、貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、本条に抵触しないものと解されています。

賃金控除に関する労使協定

労基法において「賃金全額払の原則」が定められていますが、過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができるとされています(同法24条1項ただし書)。このため、貸付金と賃金を相殺するためには、賃金の一部控除に関する労使協定の締結が必要です。この点について行政解釈では、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ」控除が認められるとしています(昭27.9.20基発第675号)。
なお、賃金の一部である限り賃金控除額の限度はないとされていますが、私法上は、民法510条および民事執行法152条に照らして、賃金控除額を賃金額の4分の1までにとどめることが求められている点に留意が必要です(昭63.3.14基発0314第150号)。

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