懲戒処分を科すにあたり、減給処分として賞与を全額不支給とすることは可能でしょうか?
(1)労基法91条では、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定されています。これは、労務の提供によりすでに発生している賃金債権を無制限に減額することを認めた場合に、労働者の生活に著しい影響を及ぼす可能性があることから、減給の限度額について定められたものです。
(2)労基法11条では、賃金の定義について「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と規定されており、賞与も賃金に含むとされています。このため、懲戒処分として賞与を減額する場合も、(1)で見た労基法91条の制限の適用を受けることとなり、1回の懲戒事由について平均賃金の2分の1を超え、また、総額について一賃金支払期における賞与額の10分の1を超えることはできません(昭63.3.14基発150号・婦発47号)。
以上のことから、ご質問にあるように、減給処分により賞与を全額不支給とすることはできません。
賞与の支給額を勤務評価に基づいて算出する場合、その算定期間における不就労期間にかかる賞与額を減額することは、労基法91条に定める減給の制裁には該当しないとされています(令和3年版 労働法コンメンタール1024頁)。このため、不就労期間にかかる減額分の計算にあたって、平均賃金の2分の1を超え、また、総額について一賃金支払期における賞与額の10分の1を超えてはならないとする労基法91条の制限は適用されないものと解されます。
❶で見た勤務評価に基づく賞与減額のほか、降格処分に伴う降給についても、減給の制裁に当たらないものと解されます。例えば、自動車運転業の会社において、業務中に交通事故を起こした運転手職の労働者が運転手として不適格であることを理由に運転助手職に降格となり、それに伴って運転手職の賃金テーブルから運転助手職の賃金テーブルに変更となった場合における賃金の減額変更は、職務変更に伴う当然の結果であることから、減給の制裁には該当しないとされています(昭26.3.14基収518号)。