事業者・労務管理担当の方のQ&A

賃金

経費節減や従業員の意欲を刺激するためには、年功序列型賃金ではなく、能力や仕事の内容を重視した賃金制度の方が効果的だと聞きました。どのような賃金制度があり、それぞれにどのような長所・短所があるのでしょうか。

賃金の決定、計算の方法である「賃金制度」についての労基法上の規制はありません。したがって、「賃金制度」のあり方は、労使が対等の立場で話合い決定することになります。
「年功序列型賃金」ついての統一的な定義はありませんが、一般的に企業における勤続年数や従業員の年齢の上昇に従って、賃金(基本給)も上昇する仕組みであると考えられます。一方、「能力や仕事の内容を重視した賃金制度」についても統一的な定義はありませんが、勤続年数や年齢に関係なく、担当している仕事の難易度や仕事上発揮した能力による成果を重視した賃金の決定の仕組みであると考えられます。そして、どのような賃金制度が、経費節減となり、かつ、従業員の意欲を刺激するのかは、企業の経営戦略やこれ伴う人事政策により異なることになります。
また、賃金制度には、従業員の「属人的要素(例えば、「年齢」、「勤続年数」等)」で基本給を決める「年齢給」、従業員の「能力」で基本給を決める「職能給」、従業員が従事している「仕事」で基本給を決める「職務給」、従業員が行った仕事の「成果・業績」で基本給を決める「業績給」があり、各賃金制度の長所、短所等を一覧表にすると、以下のとおりとされていますので、この点を踏まえて検討されるとよいでしょう。

名称年齢給職能給職務給業績給
決定
基準
従業員の年齢、学齢、最終学歴の卒業年次従業員の職務遂行能力従業員が従事する職務従業員が従事した仕事の業績
長所従業員のライフステージごとの最低生計費が保障され、従業員に安心感を与え、長期勤続を促進する効果がある。人事異動が容易で、従業員個々人の能力開発を動機付けることができ(多能工化)、企業の長期的な発展に寄与する。仕事という労働の価値と基本給の額が一致し、企業横断的に必要な人材を募集でき、職業能力の向上のためのコストが生じない。仕事の成果と基本給の額が連動し、短期的には企業の業績が向上する。
短所従業員の平均年齢の上昇が賃金コストの上昇に直結し、賃金水準の低くなる若年従業員に不平が生じ、かつ、国際性がない。ポストがなくとも、昇格できることから高齢化により人件費が上昇し、その運用が年功的になる。人事異動が困難で、従業員個々人の企業内での能力開発を動機付けること(多能工化)ができない。複雑で共同作業が必要な仕事では採用できない。
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労基法の規定

労基法24では、賃金の支払方法についての5原則(①通貨払いの原則、②直接払いの原則、③全額払の原則、④毎月払の原則、⑤一定期日払の原則(ただし、臨時の賃金等は④、⑤の適用はない。))を定めているのみで、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
また、労基法15では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」とした上で、「賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」については、労働者に対し書面で交付しなければならないと規定しています(労基則5)が、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
さらに、労働条件を画一的に規制するための就業規則について定めた労基法89でも、就業規則に必ず記載しなければならない事項の1つとして、「賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」(89条(二))を規定していますが、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
したがって、賃金の決定、計算の方法である「賃金制度」についての労基法の規制はないことなり、「賃金制度」のあり方は労使が対等の立場で話合い決定することになります。

各賃金制度の長所、短所等

上記の①の従業員の「属人的要素(例えば、「年齢」、「勤続年数」等)」で基本給を決める賃金制度の例として「年齢給」、②の従業員の「能力」で基本給を決める賃金制度の例として「職能給」、③の従業員が従事している「仕事」で基本給を決める賃金制度の例として「職務給」、④の従業員が行った仕事の「成果・業績」で基本給を決める「業績給」を取り上げて、各賃金制度の長所、短所等を一覧表にすると、以下のとおりとなっています。

各賃金制度の長所、短所等
名称年齢給職能給職務給業績給
決定
基準
従業員の年齢、学齢、最終学歴の卒業年次従業員の職務遂行能力従業員が従事する職務従業員が従事した仕事の業績
長所 ①年齢という万人に共通する自然的現象を基礎としているため分かりやすい。
②基本給の計算・管理が容易である。
③従業員のライフステージごとの最低生計費が保障される。
④従業員に安心感を与え、長期勤続を促進する効果がある。
⑤仕事と賃金額が一致しないため配置転換が容易である。
①仕事と基本給額が一致せず職掌、職種を超えた人事異動が容易である。
②従業員個々人の能力開発を動機付けることができ(多能工化)、企業の長期的な発展に寄与する。
③保有能力が低下しない限り基本給は下がらず長期勤続を促す効果がある。
④昇進と昇格を分離することによりポストが不足しても昇格が可能となる。
①仕事という労働の価値と基本給の額が一致する。
②企業横断的に必要な人材を募集できる。
③企業を巡る状況の変化や技術革新のスピードアップに対し、新しい職務を作り、古い職務を廃止することで対応できる。
④職業能力の向上のためのコストが生じない。
①仕事の成果と基本給の額が連動し、短期的には企業の業績が向上する。
②業績の範囲内に基本給の額を納めることができる。
③短期的には従業員の勤労意欲は高まる。
短所 ①仕事という労働の価値と基本給の額が一致しない(同じ仕事をしていても賃金が異なる。)。
②従業員の働き振り(業績、成績、発揮能力など)や職業能力の向上と基本給が一致しない。
③企業の業績と無関係に賃金コストが増減する。
④従業員の平均年齢の上昇が賃金コストの上昇に直結し、賃金水準の低くなる若年従業員に不平が生じる。
⑤日本独自の賃金制度であり国際性がない。
①仕事という労働の価値と基本給の額が一致しない。
②ポストがなくとも、昇格できることから人件費が上昇する。
③既存の能力の陳腐化に対応できない。
④職務遂行能力の定義が抽象的であることなどにより、その運用が年功的になる。
①企業内での職掌、職種を超えた人事異動が困難である。
②従業員個々人の企業内での能力開発を動機付けること(多能工化)ができない。
③基本給が一定額以上上昇せず長期勤続を促す効果がない。
④組織が硬直化し、従業員の協調性が育たない。
⑤制度の設計、維持にコストが掛かる。
①複雑で共同作業が必要な仕事では採用できない。
②組織が硬直化し、従業員の協調性が育たない。
③従業員の過重労働に繋がる。
最近の
動き
近年、廃止、縮小の動きがある。一方、非正規労働者を含めた労働者の生計費の確保のため政府による最低賃金の引上げや下請け価格に社会保険料などの労務費を確保させる動きがある。 これまでの能力の概念である保有能力を仕事で発揮されている「発揮能力」とする動きや各人の「行動特性」を取り入れる動きがある。 職務の細分化を止め、職務範囲を拡大する動きがある。 基本給ではなく、個人、所属グループや企業の業績を賞与の額に反映させる動きがある。

なお、「業績給」に関連して、一定の労働給付の結果又は一定の出来高で賃率が決められる「請負制」で使用される労働者については、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金の保障をしなければならず(労基法27)、この保障給の額について「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定める」との通達(S22.09.13 発基17、S63.03.14 基発150・婦発47)があることに留意する必要があります。

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