事業者・労務管理担当の方のQ&A

解雇・雇止め

解雇と合意退職・辞職の違いについて教えてください。

労働契約の終了原因としては、解雇、辞職、合意退職、定年、休職期間満了等就業規則に定めた自動退職、労働者の死亡、会社(使用者)の消滅があります。そのうち、解雇は、使用者から一方的な意思表示によって労働契約を消滅させるものです。これに対応して、労働者から一方的に労働契約を消滅させる意思表示が「辞職」です。また、労働者と使用者が合意をして労働契約を消滅させることを「合意退職」といいます。この「合意退職」に至る過程で退職勧奨が行われることがあります。これは次問でご説明しますが、合意退職の申込みという意味を持ち、これに応ずるかどうかは労働者の自由です。
民法では、期間の定めのない雇用契約は当事者(使用者および労働者)のいずれかが2週間の予告期間を置けば解約(使用者からは解雇、労働者からは辞職)することができる制度となっています(民法627①)が、使用者からの解雇は多くの制限のあることは、これまで説明したとおりです。 これに対し、労働者側からの退職(辞職)については民法627条1項がそのまま適用されます。労働者からの辞職について、この民法627条の予告期間を超える予告期間を設定することは、労働者の退職の自由を制限することになり無効であると判断している裁判例(例えば、高野メリヤス事件、東京地裁昭和51年10月29日判決)のあることに注意すべきです。
なお、民法では期間の定めのない労働契約を労働者が終了させるには、2週間の予告期間があれば足りることになっています。従来、月給制や年俸制の場合の例外がありましたが、民法は平成29年(2017年)に大改正があり(令和2年4月1日から施行)、改正法では労働者からの辞職の予告期間は、月給制だとか年俸制であっても一律2週間となりました。なお、この辞職を含めて労働者側からの申出による労働契約の終了事由のことを、「退職」と呼ぶことがあります。

ところで、就業規則でこの辞職の予告期間を延長することができるかという問題がありますが、裁判例(高野メリヤス事件、東京地判昭51.10.29労働判例264号36頁)では、民法627の定める期間を超える解約予告期間の設定は無効と判断されています(なお、広告代理店A社事件・福岡高判平28.10.14は、民法627条1項を強行規定と判断している)。ですから、この民法の条文の定める予告期間を就業規則等で延長することはできません。したがって、労働者の辞職の予告期間について、就業規則や労働契約で、例えばこれを30日に延長することは、民法627条1項の期間を延長する限りでは無効となります。

辞職に関する裁判例
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/taisyoku/jisyoku.html
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/taikei_r/15/middle15_1.html

辞職に関するパンフレット
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/roumukanri.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000920658.pdf

一方的意思表示による労働契約が終了する辞職とは別に、労働者の側から「合意退職」の申込みを行うことがありますが、これは合意退職の申込みであり、これに対する使用者からの承諾によって(民法522)、労働契約を終了させるという「合意退職」が成立します。労働者が合意退職の申込みをしたときには、これに対する使用者の「承諾」によって「合意退職」が成立しますので、この承諾があるまでは退職の申込みを撤回することが可能です。この合意退職をするための申込みの期限として、就業規則あるいは労働契約で2週間を超える申込みの期間を定めることは可能ですが、そのような規定のある場合であっても、民法627条1項に基づく労働者の側からの一方的意思表示による「辞職」の予告期間に影響を与えるものではなく、合意退職とは別に、2週間の予告期間を置いた辞職は可能です。
他方で、使用者からの退職勧奨に対して労働者がこれを承諾した場合も、「合意退職」となります。合意退職については、解雇の場合に要求されるような制限はありませんが、使用者が退職勧奨を強力に行いすぎた場合には、労働者の「承諾」の意思表示が成立していなかったと判断されたり(グローバルマーケティングほか事件、東京地裁判決令和3年10月14日)、退職の意思表示の取消原因(民法95、96等)となったりします。

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