事業者・労務管理担当の方のQ&A

解雇・雇止め

退職勧奨とはどのようなものでしょうか。

退職勧奨について
解雇と間違えやすいものに、使用者からの退職勧奨があります。退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいいます。これは、使用者が一方的に労働契約の解除を通告する解雇とは異なります。退職勧奨はあくまで退職の「勧奨」であって、労働者がこれに承諾しなければ、労働契約の終了という効果は発生しません。この退職勧奨が強度に行われてやむなく退職を承諾した場合などには、解雇と同じではないかと労働者が意識することがありますが、この両者は全く異なるものです。退職勧奨は、労働契約を終了させることの「申込」であり、これに「承諾」するかどうかは労働者の自由です。
退職勧奨に労働者が承諾するかどうか自由であるといっても、労働者の本来の意思に反して「承諾」の外形をとった行動を行った場合(例えば、「もう会社を辞める」と口走ったり、「退職願」を記載したような場合)、その退職勧奨が違法となったり、労働契約関係終了の効力が発生しないことがあります。例えば、使用者が虚偽の事実を述べたり、脅迫をしたり、あるいは懲戒解雇事由があると労働者が誤解したような場合には、錯誤、詐欺、強迫(民法95,96)により取消可能となることがあります。さらに、労働者がその自由な意思に基づいて退職の意思表示をしたものとは認められないとして、退職の合意の成立が認められないと判断された裁判例(グローバルマーケティングほか事件、東京地裁令和3年10月14日判決)もあります。
また、労働者が自由意思により、退職勧奨に応じる場合は問題となりませんが、使用者による労働者の自由な意思決定を妨げるような退職勧奨は、違法な権利侵害に当たるとされる場合があります(日本アイ・ビー・エム事件、東京地裁平成23年12月28日判決。ただし、事案の具体的判断としては許容される範囲を逸脱していないとされた)。違法な退職勧奨と判断されたものとして、明確に退職勧奨を拒否しているのに、執拗に退職勧奨を繰り返したとか(日立製作所事件、横浜地裁令和2年3月24日判決)、嫌がる労働者にその場で退職手続きをするよう1時間ほど繰り返し迫ったという事案(東武バス日光ほか事件、東京高等裁判所令和3年6月16日)があります。
退職勧奨とは、労働者に退職の意思表示をするよう勧めることをいうのですから、その範囲を超えて、労働者に退職を強要するような「勧奨」の範囲を逸脱してしまった場合、その退職勧奨は違法と評価されることがありますので、行き過ぎないよう注意をすべきです。

退職勧奨に関する裁判例
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/taisyoku/kansyou.html
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/taikei_r/15/middle15_5.html

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