年次有給休暇はどのような場合に、何日与えなければならないのでしょうか? また、どのような点に留意すればよいのでしょうか?
勤続年数 | 6か月 | 1年 6か月 |
2年 6か月 |
3年 6か月 |
4年 6か月 |
5年 6か月 |
6年 6か月以上 |
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付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
週所定 労働日数 | 年間所定 労働日数 | 勤続年数 | ||||||
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6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年 6か月以上 | ||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
継続勤務は、在籍期間のことをいい、勤務の実態に即し、実質的に労働関係が継続しているかどうかによって判断されます。例えば、次のような場合でも、実質的に労働関係が継続しているといえる場合には、勤続年数を通算します(S63.3.14 基発150)。
出勤率は、次の式で計算されます。
出勤率(%)= | 出勤した日 | ×100 |
全労働日 |
年次有給休暇が付与される要件としての出勤率の算定に当たって、全労働日と出勤日の取扱いは次によることとされています。
〈関連判例〉
八千代交通事件(最高裁第一小法廷 平25.6.6判決)
【判例要旨】
労働者が解雇の無効を主張して提訴し、当該解雇の無効が確定して復職した事案において、年次有給休暇権の発生要件につき、無効な解雇期間中の不就労日は労基法39条1項及び2項における全労働日に含まれ、出勤日に算定しなければならないことが明らかにされた。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/yukyu/yukyu.html
年次有給休暇の取得日は労働者の権利ですから、原則として、労働者が好きな時季に年次有給休暇をとる日を指定することができます。ただし、労働者が指定した時季に休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者は、他の時季に変えてもらうこと(時季変更権)が認められています(労基法39⑤)。
使用者の時季変更権の行使が認められる「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかは、
個別的、具体的、客観的に判断されています(S23.7.27 基収2622)。裁判例では、労働者が所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきものとされています。
年次有給休暇の取得促進を目的に、2019年(平成31年)4月1日以降、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(パートタイム労働者や管理監督者も含まれます。)に対し、年休付与日から1年以内に5日の年休付与義務が使用者に課せられることとなりました(改正労基法39条7項参照)。同条違反に対しては、新たに罰則規定(30万円以下の罰金)も設けられており、使用者に対し年休5日の付与義務を強く課すものです。同義務が生じるのは当該年度ごとに10日以上の年休が新たに付与された場合であり、繰り越し分の日数を含めたものではありません。他方で、実際に取得した年休日数の算出(5日)については、前年度から繰り越された年休の取得日数も加味しうることとされています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
〈関連判例〉
此花電報電話局事件(最高裁第一小法廷 昭57.3.18判決)
【判例要旨】
年次有給休暇の成立要件に使用者の承認という観念をいれる余地はなく、特定の時季を指定した年次有給休暇の請求に対し、これを承認しまたは不承認とする旨の使用者の応答は、時季変更権を行使せずまたは行使する旨の意思表示をしたものに当ると解すべきである。
「事業の正常な運営を妨げる」か否かは当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。
「交替服務者が休暇を請求する場合は、原則として前々日の勤務終了時までに請求する」旨の定めは、労働基準法39条に違反しない。
勤務開始時刻前に第三者(宿直職員)を介してなされた当日全日または午前中2時間の年次有給休暇の請求に対し、事業の正常な運営を妨げる虞があるとの判断の下に、休暇を必要とする事情いかんによっては右休暇を認めるのを妥当とする場合があると考え、休暇の理由をただしたところ、労働者が休暇の理由を明らかにすることを拒んだため、年次休暇の請求を不承認とする意思表示をしたことにつき、右の事情の下においては、不承認の意思表示が休暇期間の開始しまたは経過した後になされた場合であっても、適法な時季変更権の行使に当り有効と認めるのが相当である。
http://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/03334.html
時事通信社事件(最高裁第三小法廷 平4.6.23判決、ID05935)
【判例要旨】
労働者が長期かつ連続した年次有給休暇を取得しようとするときは、事前の調整が必要であり、労働者が右の調整を経ることなく時季指定をしたときは、時季変更権の行使について使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないが、右裁量的判断は合理的でなければならないところ、新聞記者の1か月の年休の時季指定について、後半部分についての時季変更権を行使したことは適法とされた事例。
http://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/05931.html
労基法は、年次有給休暇をとった労働者に対して、使用者が賃金を減額したり、その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないことを定めています(労基法附則136)。
例えば、精皆勤手当や賞与を算定する際に、年次有給休暇を欠勤扱いにすることなどが不利益取扱いに当たります(S63.1.1 基発1)。
この規定は、年次有給休暇をとった労働者に対する不利益取扱いが年次有給休暇の取得を抑制し、労基法39条の精神に反することなどから、訓示規定として設けられたものです。労基法附則136条の違反は、直ちに罰則を伴うものではありませんが、労基署の是正指導の対象になりますし、また、精皆勤手当や賞与の減額などの程度によっては、公序良俗に反するものとして民事上無効(民法90)となる場合もあります。
〈関連判例〉
大瀬工業事件(横浜地裁 昭51.3.4判決、ID01445)
【判例要旨】
就業規則に定める皆勤手当制度、出勤奨励金制度において年次有給休暇で欠勤した日を通常の欠勤日として取り扱われ、当該手当を支給されなかった従業員が、その支払いを請求した事例で、皆勤手当等の諸手当の全部または一部を『年休を取得して休んだ日のあること」を理由にして支給しないことは違法と判断された。
http://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/01445.html
沼津交通事件(最二小判 平5.6.25判決 ID06155)
【判例要旨】
乗務予定表作成後に年休を取得すると皆勤手当の全部または一部を控除する措置は、労基法の規定からして望ましいものではないものの、取得を抑制する趣旨ではなく実車率の向上を目的とするものであり、控除額の賃金に占める割合も小さく、取得実績や残日数を買い取っていたことなどからすれば、年休の取得を抑制し、権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものではなく、公序に反して無効とまではいえない。
http://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/06155.html