目次目次

しっかり学ぼう!働くときの基礎知識

事業主・労務管理担当の方へ

副業・兼業と労働条件

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〇ポイント
労働時間管理、健康管理、就業規則、懲戒、労災保険、雇用保険、社会保険
副業・兼業の促進に関するガイドライン、労働者災害補償保険法の改正

〇はじめに
「働き方改革」等により、「副業・兼業」については、その促進に向けたガイドラインが策定され、また、これを認める方向で、モデル就業規則も改正されています。このように「副業・兼業」に関しては、大きな変化がみられるところですが、「副業・兼業」はこれまで一般的に想定されていた働き方を変えるものであり、具体的には労働時間管理、健康管理、労災保険等、使用者にとって重要な課題が多いといえます。
今後、「副業・兼業」の導入が進むと、その運用を適切かつ円滑に行うためには、制度についての基本的理解が労使双方に必要となります。そのような際に、参考になり、必要なチェックができるように解説をしていきたいと思います。

1副業・兼業とは?

「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(以下、「ガイドラインわかりやすい解説」)によると、「副業・兼業とは?」に対して、「副業・兼業を行うということは、二つ以上の仕事を掛け持つことをここでは想定しています。副業・兼業は、企業に雇用される形で行うもの(正社員、パート・アルバイトなど)、自ら起業して事業主として行うもの、コンサルタントとして請負や委任といった形で行うものなど、さまざまな形態があります。」としています。
本稿でも「副業・兼業」については、上記「ガイドライン分かりやすい解説」によるものとします。

2副業・兼業の促進に関するガイドラインの策定と改定の経緯

(1)副業・兼業の促進に関するガイドラインの策定(平成30年版)

副業・兼業については、平成29年3月28日に働き方改革実現会議で策定された「働き方改革実行計画」で、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」のためには、兼業・副業の促進に向けたガイドラインの策定や兼業・副業を認める方向でのモデル就業規則の改正が必要とされました。
これを踏まえて、厚生労働省では、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定しました。

〇「働き方改革実行計画」

働き方改革実行計画(抄)(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)
5.柔軟な働き方がしやすい環境整備
テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる。副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である。我が国の場合、テレワークの利用者、副業・兼業を認めている企業は、いまだ極めて少なく、その普及を図っていくことは重要である。
他方、これらの普及が長時間労働を招いては本末転倒である。労働時間管理をどうしていくかも整理する必要がある。ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、普及を加速させていく。
(3)副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定
副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない。労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る。
副業・兼業のメリットを示すと同時に、これまでの裁判例や学説の議論を参考に、就業規則等において本業への労務提供や事業運営、会社の信用・評価に支障が生じる場合等以外は合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化するとともに、長時間労働を招かないよう、労働者が自ら確認するためのツールの雛形や、企業が副業・兼業者の労働時間や健康をどのように管理すべきかを盛り込んだガイドラインを策定し、副業・兼業を認める方向でモデル就業規則を改定する。
また、副業・兼業を通じた創業・新事業の創出や中小企業の人手不足対応について、多様な先進事例の周知啓発を行う。
さらに、複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、雇用保険及び社会保険の公平な制度の在り方、労働時間管理及び健康管理の在り方、労災保険給付の在り方について、検討を進める。

(出所:H30.7.17第1回副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会資料5)

〇副業・兼業の促進に関するガイドラインの概要(平成30年版)

副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定)
1副業・兼業の現状
副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にある一方、多くの企業が認めていない。
2副業・兼業の促進の方向性
業種や職種によって仕事の内容、収入等も様々な実情があるが、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したいなどの希望を持つ労働者が、長時間労働を招かないよう留意しつつ、雇用されない働き方も含め、希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要。
3企業の対応
・原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当。
・副業・兼業を認める場合には、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか、長時間労働を招くものとなっていないか確認する観点から、労働者から、副業・兼業の内容等を申請・届出させることが考えられる。・就業時間の把握労働者の自己申告により、副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられる。
・健康管理副業・兼業を推奨している場合には、副業・兼業先の状況も踏まえて健康確保措置を実施することが適当。
4労働者の対応
・勤めている企業の副業・兼業に関するルール(労働契約、就業規則等)を確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要。
・労働者自ら、本業及び副業・兼業の業務量や健康状態の管理が必要。
5副業・兼業に関わるその他の現行制度について
労災保険、雇用保険、厚生年金保険、健康保険について

(出所:H30.7.17第1回副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会資料5)

(2)副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定(令和2年改定版)

厚生労働省は、令和2年9月1日に、副業・兼業の促進に関するガイドラインの初の改定を行っています(令和2年改訂版)。
令和2年改定版ガイドラインでは、政府の「成長戦略実行計画」(令和2年7月17日閣議決定)等を踏まえて、副業・兼業の際の労働時間管理と健康管理のルールを明確化しています。
さらに、「労働時間の通算」に関しては、本業と副業先がそれぞれ時間外労働の上限規制の範囲内で労働時間の上限を設定し、自社の労働者に対し割増賃金を支払う「管理モデル」を新たに示したことが特徴となっています。

〇成長戦略実行計画」(令和2年7月17日閣議決定

成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和2年度革新的事業活動に関する実行計画(令和2年7月17日閣議決定)(労働条件分科会に関係する部分抜粋)
「成長戦略実行計画①」

第2章 新しい働き方の定着

1.兼業・副業の環境整備
人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要である。ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代の働き方としても、兼業・副業、フリーランスなどの多様な働き方への期待が高い。
実態をみると、兼業・副業を希望する者は、近年増加傾向にあるものの、他方、実際に兼業・副業がある者の数は横ばい傾向であり、働く人の目線に立って、兼業・副業の環境整備を行うことが急務である。
この背景には、労働法制上、兼業・副業について、兼業・副業先と労働時間を通算して管理することとされている中、「兼業・副業先での労働時間の管理・把握が困難である」として、兼業を認めることに対する企業の慎重姿勢がある。本未来投資会議の審議においても、兼業を認めると自社の労働力が減るにもかかわらず逆に管理工数が上がる中で、企業の労務管理責任の範囲・在り方についてしっかりとルールを整備し、企業が安心して兼業・副業を認めることができるようにすることが重要、との指摘がある。
このため、労働時間の管理方法について、以下の方向で、労働政策審議会における審議を経て、ルール整備を図る。

(1)労働者の自己申告制について
兼業・副業の開始及び兼業・副業先での労働時間の把握については、新たに労働者からの自己申告制を設け、その手続及び様式を定める。この際、申告漏れや虚偽申告の場合には、兼業先での超過労働によって上限時間を超過したとしても、本業の企業は責任を問われないこととする(※)。
(※)フランス・ドイツ・イギリスのいずれも、労働時間上限規制との関係では兼業・副業時の労働時間も通算することとしているが、その管理方法については、兼業・副業の有無やこれらの労働時間について労働者に自己申告させることが一般的であり、自己申告していない又は虚偽申告を行った場合、本業の企業は責任が問われないこととなっている。

(2)簡便な労働時間管理の方法について
本業の企業(A社)が兼業を認める際、以下①、②の条件を付しておくことで、A社が兼業先(B社)の影響を受けない形で、従来通りの労働時間管理で足りることとなる。

①兼業を希望する労働者について、A社における所定の労働時間(※1)を前提に、通算して法定労働時間又は上限規制の範囲内となるよう、B社での労働時間を設定すること(※2)。
(※1) 「所定の労働時間」とは、各企業と労働者の間で決められる、残業なしの基本的な労働時間のことで、通常は、法定労働時間の範囲内で設定される。
(※2) B社において36協定を締結していない場合は、「A社における所定の労働時間」と「法定労働時間」の差分の時間内、B社で兼業可能。B社において36協定を締結している場合は、当該協定の範囲内で、「A社における所定の労働時間」と「B社の36協定で定めた上限時間」の差分の時間内、B社で兼業可能。

②上記の場合、A社において所定の労働時間を超えて労働させる必要がある場合には、あらかじめ労働者に連絡することにより、労働者を通じて、必要に応じて(規制の範囲内におさまるよう)、B社での労働時間を短縮させる(※)ことができるものとすること。
(※) B社の労働時間の短縮について、労働者から虚偽申告があった場合には、上限規制違反についてA社が責任を問われることはないこととする。また、これにより、A社については、従来通り、自社における所定外労働時間(※)についてのみ割増賃金を支払えば足りることとなる。
(※) 企業によっては、所定の労働時間を法定労働時間より短く設定し、所定外労働時間であっても法定労働時間内であれば割増賃金を払わないこととしている場合もあるが、その場合は法定労働時間を超える部分。

(3)労働者災害補償保険の給付の拡充
兼業・副業の場合の労働者災害補償保険の給付の拡充について、労働者災害補償保険法等の改正法が成立した。複数就業先の賃金に基づく給付基礎日額の算定や業務上の負荷を総合的に評価し認定を行う改正の円滑な施行を図る。

(出所:第162回労働政策審議会労働条件分科会 (資料NO.1)

〇副業・兼業の促進に関するガイドラインの概要(令和2年番)

副業・兼業の促進に関するガイドライン<概要>(平成30年1月策定、令和2年9月改定)
ガイドラインの目的
副業・兼業を希望する者が年々増加傾向にある中、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について示す。
ガイドラインの構成
1副業・兼業の現状
・副業・兼業を希望する者は、年々増加傾向にある。
・副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされている。
・厚生労働省のモデル就業規則でも、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」とされている。
2副業・兼業の促進の方向性
・人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要。副業・兼業は、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もある。
・副業・兼業を希望する労働者については、その希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要である。
・長時間労働にならないよう、以下の3~5に留意して行われることが必要である。
3企業の対応
(1)基本的な考え方
・副業・兼業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要である。
・使用者及び労働者は、①安全配慮義務、②秘密保持義務、③競業避止義務、④誠実義務に留意する必要がある。
・就業規則において、原則として労働者は副業・兼業を行うことができること、例外的に上記①~④に支障がある場合には副業・兼業を禁止又は制限できることとしておくことが考えられる。
(2)労働時間管理
労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合には、労働基準法第38条第1項に基づき、以下により、労働時間を通算して管理することが必要である。
①労働時間の通算が必要となる場合
・労働者が事業主を異にする複数の事業場において「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合に、労働時間が通算される。
・事業主、委任、請負など労働時間規制が適用されない場合には、その時間は通算されない。
・法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)について、労働時間を通算して適用される。
・労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましい。
②副業・兼業の確認
・使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。
・使用者は、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。
③労働時間の通算
・副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者は、労働時間を通算して管理する必要がある。
・労働時間の通算は、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算することによって行う。
・副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分は後から契約した会社の時間外労働となる。
・副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となる。
④時間外労働の割増賃金の取扱い
・上記③の労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要がある。
⑤簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)
・上記③④のほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)によることができる。
・「管理モデル」では、副業・兼業の開始前に、A社(先契約)の法定外労働時間とB社(後契約)の労働時間について、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととする。
これにより、副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となる。
・「管理モデル」は、副業・兼業を行おうとする労働者に対してA社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者及び労働者を通じて使用者B(後契約)が応じることによって導入される。

簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)


(3)健康管理
・使用者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等を実施しなければならない。
・使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、原則として他社との情報交換により、難しい場合には労働者からの申告により他社の労働時間を把握し、自社の労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当である。
・使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えること、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施することなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することが適当である。
・使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、実効ある健康確保措置を実施する観点から、他社との間で、労働の状況等の情報交換を行い、それに応じた健康確保措置の内容に関する協議を行うことが適当である。
4労働者の対応
・労働者は、自社の副業・兼業に関するルールを確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要がある。
・労働者は、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、自ら業務量や進捗状況、時間や健康状態を管理する必要がある。
・他社の業務量、自らの健康の状況等について報告することは、企業による健康確保措置を実効あるものとする観点から有効である。
5副業・兼業に関わるその他の制度
(1)労災保険の給付
・複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する。
・複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う。
・副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となる。
(2)雇用保険
・令和4年1月より、65歳以上の労働者本人の申出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始される。

(出所:令和2年9月01日(火)発表「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定しました」)
(3)副業・兼業の促進に関するガイドラインの再改定(令和4年改定版)

令和4年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画~人・技術スタートアップへの投資の実現~」において、「労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を支援する観点から、企業に副業・兼業を共有しているか否か、また条件付き許容の場合はその条件について、『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を改定し、情報公開を行うことを企業に推奨する」旨が明記されました。
そして「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」(令和4年6月7日閣議決定)には、「労働移動の円滑化も視野に入れながら、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を促進する観点から副業・兼業を推進する」、「情報開示等を通じた副業・兼業の促進により円滑な労働移動を図る」との方針が盛り込まれました。
さらに、令和4年改定版ガイドラインの改定時期やその後の施策については、「新しい資本主義実行計画工程表(令和4年6月7日)」において、7月に改定をすること等が明記されました。
厚生労働省は、上記の閣議決定等を踏まえて、令和4年7月8日にガイドラインの2回目の改定を行っています。
令和4年改定版ガイドラインでは、副業・兼業を許容しているか否かなどの情報をホームページ等で公表すること、それにより多様なキャリア形成を促進すること、労働者は企業が公表した「副業・兼業に関する情報」を参考にすること等が盛り込まれました。

〇副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成 30 年1月策定・令和2年9月改定・令和4年7月改定)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

〇「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画~人・技術スタートアップへの投資の実現~」
〇「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」

閣議決定文書
○新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(令和4年6月7日閣議決定)(抄)
Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資
1.人への投資と分配
(2)スキルアップを通じた労働移動の円滑化
④副業・兼業の拡大
従業員1,000人以上の大企業では、特に副業・兼業の解禁が遅れている。副業を通じた起業は失敗する確率が低くなる、副業をすると失業の確率が低くなる、副業を受け入れた企業からは人材不足を解消できた、といった肯定的な声が大きい。成長分野・産業への円滑な労働移動を進めるため、さらに副業・兼業を推し進める。
このため、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を支援する観点から、企業に副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、情報開示を行うことを企業に推奨する。

○経済財政運営と改革の基本方針2022(令和4年6月7日閣議決定)(抄)
第2章新しい資本主義に向けた改革
1.新しい資本主義に向けた重点投資分野
(1)人への投資と分配
ポストコロナの「新しい日常」に対応した多様な働き方の普及を図るため、時間や場所を有効に活用できる良質なテレワークを促進する。労働移動の円滑化も視野に入れながら、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を促進する観点から副業・兼業を推進するほか、選択的週休3日制度については、子育て、介護等での活用、地方兼業での活用が考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促進し、普及を図る。
(3)スタートアップ(新規創業)への投資
あわせて、起業を支える人材の育成や確保を行う。具体的には、成長分野において前人未踏の優れたアイデア・技術を持つ人材に対する支援策を抜本的に拡充するとともに、家庭や学校とは別に子供の才能を発掘・育成する場の整備を支援する。情報開示等を通じた副業・兼業の促進等により円滑な労働移動を図るほか、大学等の研究者と外部経営人材とのマッチングを支援する。また、スタートアップの経営を支援する専門家等の相談窓口整備を推進する。

(出所:第182回労働政策審議会職業安定分科会(資料4-1)、第175回労働政策審議会労働条件分科会(資料NO.4)

3副業・兼業の現状

ガイドラインが初めて策定された2018年と2021年を比較したものです。
副業・兼業の現状
・正社員の副業を容認する企業は増加している一方、全面禁止としている企業も多く存在。

副業・兼業の現状

(出所:令和4年5月20日「新しい資本主義実現会議(第7回)」資料16 後藤厚生労働大臣提出資料)

また、労働政策審議会安全衛生分科会における「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」(第131回労働政策審議会安全衛生分科会(令和2年7月31日)資料3-1)については以下のとおり。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000655296.pdf

4副業・兼業のメリットと留意点

「ガイドライン」によると、副業・兼業のメリットと留意点は下記のとおりです。

【労働者】
メリット:

① 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
② 本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
③ 所得が増加する。
④ 本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。
留意点:
① 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。
② 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。
③ 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要である。

【企業】
メリット:

① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
② 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
③ 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
④ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

留意点:
① 必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。

ただ、「ガイドラインわかりやすい解説」には、「メリットや留意点は、副業・兼業をしている労働者や副業・兼業を認めている企業から聞いた意見等を踏まえて例示したものです。実際には、労働者や企業それぞれの状況によって異なると考えられます。」との補足があります。

5就業規則等の整備―兼業・副業を認める方向でのモデル就業規則の改正

(1)モデル就業規則とは

常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則の作成・変更の際は、労働基準監督署長に届出が必要です(労基法89条)。
モデル就業規則は、就業規則の作成・届出の参考のため、厚生労働省が就業規則の規程例や解説を厚生労働省HPに掲載しているものです。

(2)これまでの裁判例

これまで副業・兼業について裁判となったのは、副業や兼業を理由として会社が懲戒処分や解雇をした場合に、その効力について争われたという事例が大半です。労働者の兼業について、会社の許可を必要とすると就業規則で規定している会社があり、そういった就業規則では、無許可での兼業を懲戒処分事由や解雇事由とするとの条項もあったことから争われたものです。

〇これまでの裁判例

●兼業を許可制としている場合の合理性
兼業についてのリーディンケースといえる小川建設事件(東京地決昭57.11.19労働判例397号30頁)では、「就業規則で兼業を全面的に禁止することは特別な場合を除き、合理性を欠く。」としながら、「従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上での会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく」と判断して、「会社の承認を得ないままで在籍のまま他に雇われたとき」には懲戒処分(懲戒解雇を含む)をするとの就業規則の規定は合理性を有するものである。」と判断しています。許可制をとる就業規則も合理性があるということで、この判断は後の裁判例でも同じです。なお、この事件では、結論的には、解雇は無効ではないと判断されています。
●秘密の漏えいのおそれなどが問題とされた事例
労務提供上の支障がなくても、秘密の漏えいのおそれなどが問題となることがありますが、それが問題となったのが、橋元運輸事件(名古屋地判昭47.4.28判例時報680号88頁)です。この事件は、会社(橋元運輸)と競業関係にある他社(元役員が現役役員の時期に設立し、後にその役員は期間満了により再任されずに退任)の取締役に就任した(元役員が退任した後にも取締役の地位を維持)労働者が、懲戒解雇事由である「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇いれられ就職したとき」「その他各号に準ずる程度の不都合行為のあった者」にあたるとして懲戒解雇された事件です。この事件で、当該労働者は、他社の業務は行うことなく、「原告らの被告に対する労務の提供に何らの支障をきたさなかった」ものの、「今後他社の業務に関与する可能性のあることや当該労働者が管理職であったことから経営上の秘密が漏れる可能性のあることから、他社の経営に直接関与していなかったとしても、被告の企業秩序を乱しまたは乱すおそれが大きい」と判断されています。
なお、この事件は管理職が競業他社の取締役となったという少し特殊性のある事件です。一般論としてどこまでの適用範囲があるかについてですが、この判決では、就業規則によって禁止されている兼業には、「会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生じせしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。」と判断されています。この点は、就業規則の限定解釈をしたものとして、後の裁判例に影響を及ぼしていると言えます。
東京メデカル・サービス・大幸商事事件(東京地判平3.4.8労働判例590号45頁)は、会社(東京メデカル・サービス)の経理部長が、他社(大幸商事)の代表取締役となり、その会社の代表取締役として、現実に会社(東京メデカル)の取引先と営業行為をしていましたが、これを知った会社からの出社、釈明、重要書類在中の机の引出の鍵等の提出を命じられたのに、出社も釈明も鍵等の引渡もしなかったことを理由に懲戒解雇されたという事案です。裁判所は、懲戒権の濫用を判断する中で、「(原告は)東京メデカルの経理部長であるから、東京メデカルに対してその職務を誠実に履行する職務専念義務ないし忠実義務を負うものであり、許可を得ることなく他の会社の代表取締役となり、東京メデカルに関連する取引をあげるということは重大な義務違反行為である」としています。
日通名古屋製鉄作業事件(名古屋地判平3.7.22労働判例608号59頁)は、運送・荷役作業に従事する労働者が、公休日に他の会社のタクシー運転手として勤務(タクシー乗務は1か月に4、5回くらいの割合)していたことを理由として懲戒解雇されたという事案です。この事件では、「会社に対する労務の提供に格別の支障を生じせしめない程度」ではなく、懲戒解雇が有効とされています。
ジャムコ立川工場事件(東京地八王子支判平17.3.16労働判例893号65頁)は、労働者が労災(化学物質過敏症)となって(慢性気管支炎、視野調整不全の症状につき労災認定がされている)休業中に、オートバイ店を開業したことが、「会社の承認を得ないで在籍のまま、他の定職についたとき」という懲戒解雇事由に該当するとして、懲戒解雇された事件です。懲戒解雇が有効と判断されました。

●解雇が無効とされた事例
十和田運輸事件(東京地判平13.6.5労働経済判例速報1779号3頁)は、運送会社の運転手として勤務していた労働者が、年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由として解雇された事件です。裁判所は、「このような行為によって被告の業務に具体的に支障をきたしたことはなかったこと、原告らは自らにこのような行為について(被告会社代表者)が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との信頼関係を破壊したとまでいうことはできない。」と判断して、解雇を無効と判断しています。
東京都私立大学教授事件(東京地判平20.12.5判例タイムズ1303号158頁)は、大学の教授が、無許可で同時通訳の業務に従事して(政府機関等が実施する国際会議の同時通訳)講義を休講したこと、無許可で語学学校講師をしたことを理由として、懲戒解雇された事件です。同時通訳の業務とは、政府機関等公的機関が実施する国際会議の同時通訳で、語学学校講師は夜間ないし土曜日でした。裁判所は、この懲戒解雇を無効と判断しました。大学関係では、学校法人Y大学事件(東京地判平29.9.14判例時報2366号39頁、東京高判平30.6.18第1法規判例体系掲載)もあり、これも解雇が無効と判断されています。

●解雇事案でない事例
マンナ運輸事件(京都地判平24.7.13労働判例1058号21頁)は、運送会社に勤務する労働者が、アルバイトの許可申請をしたのに対し、会社がこれを4回にわたって不許可としたことについて、4回のうち後の2回は不許可の理由がないとして、不法行為に基づく損害賠償請求を認めたという事案です。裁判所は、兼業を許可制とする場合、「兼業を許可するか否かは、・・・使用者の恣意的な判断を許すものでないほか、兼業によっても使用者の経営秩序に影響がなく、労働者の使用者に対する労務提供に格別支障がないような場合には、当然兼業を許可すべき義務を負うものというべきである。」と判断しています。

(3)基本的な考え方

「ガイドライン」では、「3 企業の対応 (1)基本的な考え方」で次のとおり示しています。
「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。
実際に副業・兼業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要である。なお、副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできない。加えて、企業の副業・兼業の取組を公表することにより、労働者の職業選択の自由を通じて、多様なキャリア形成を促進することが望ましい。
また、労働契約法第3条第4項において、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」とされている(信義誠実の原則)。
信義誠実の原則に基づき、使用者及び労働者は、労働契約上の主たる義務(使用者の賃金支払義務、労働者の労務提供義務)のほかに、多様な付随義務を負っている。 副業・兼業の場合には、以下の点に留意する必要がある。」

〇副業・兼業の場合の留意点

ア 安全配慮義務
労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされており(安全配慮義務)、副業・兼業の場合には、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っている。 副業・兼業に関して問題となり得る場合としては、使用者が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等が 考えられる。
このため、
・ 就業規則、労働契約等(以下、「就業規則等」という。)において、長時間労働等 によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
・ 副業・兼業の届出等の際に、副業・兼業の内容について労働者の安全や健康に支障をもたらさないか確認するとともに、副業・兼業の状況の報告等について労働者と話し合っておくこと
・ 副業・兼業の開始後に、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康 状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること
等が考えられる。
イ 秘密保持義務
労働者は、使用者の業務上の秘密を守る義務を負っている(秘密保持義務)。 副業・兼業に関して問題となり得る場合としては、自ら使用する労働者が業務上の秘密を他の使用者の下で漏洩する場合や、他の使用者の労働者(自らの労働者が副業・兼業として他の使用者の労働者である場合を含む。)が他の使用者の業務上の秘密を自らの下で漏洩する場合が考えられる。
このため、
・ 就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
・ 副業・兼業を行う労働者に対して、業務上の秘密となる情報の範囲や、業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起すること
等が考えられる。
ウ 競業避止義務
労働者は、一般に、在職中、使用者と競合する業務を行わない義務を負っていると解されている(競業 避止義務)。 副業・兼業に関して問題となり得る場合としては、自ら使用する労働者が他の使用者の下でも労働することによって、自らに対して当該労働者が負う競業避止義務違反が生ずる場合や、他の使用者の労働者を 自らの下でも労働させることによって、他の使用者に対して当該労働者が負う競業避止義務違反が生ずる 場合が考えられる。 したがって、使用者は、競業避止の観点から、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるが、競業避止義務は、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないことを内容とする義務であり、使用者は、労働者の自らの事業場における業務の内容や副業・兼業の内容等に鑑み、その正当な利益が侵害されない場合には、同一の業種・職種であっても、副業・兼業を認めるべき場合も考えられる。
このため
・ 就業規則等において、競業により、自社の正当な利益を害する場合には、副業・兼業を禁止又は制限 することができることとしておくこと
・ 副業・兼業を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないこと について注意喚起すること
・ 他社の労働者を自社でも使用する場合には、当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう確認や注意喚起を行うこと
等が考えられる。
エ 誠実義務
誠実義務に基づき、労働者は秘密保持義務、競業避止義務を負うほか、使用者の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動することが要請される。
このため、
・ 就業規則等において、自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合には、 副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
・ 副業・兼業の届出等の際に、それらのおそれがないか確認すること
等が考えられる。
オ 副業・兼業の禁止又は制限
(ア) 副業・兼業に関する裁判例においては、
・ 労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であること
・ 例外的に、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるとされた場合としては
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
が認められている。
このため、就業規則において、
・ 原則として、労働者は副業・兼業を行うことができること
・ 例外的に、上記①~④のいずれかに該当する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
が考えられる。
(イ) なお、副業・兼業に関する裁判例においては、就業規則において労働者が副業・兼業を行う際に 許可等の手続を求め、これへの違反を懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていない。
このため、労働者の副業・兼業が形式的に就業規則の規定に抵触する場合であっても、懲戒処分を行うか否かについては、職場秩序に影響が及んだか否か等の実質的な要素を考慮した上で、あくまでも慎重に判断することが考えられる。
(出所:「平成30年1月策定(令和2年9月改定)(令和4年7月改定)副業・兼業の促進に関するガイドライン」)

(4)モデル就業規則の改正

「働き方改革実行計画」で、兼業・副業を認める方向でのモデル就業規則の改正が必要とされ、また、上記(3)の「基本的な考え方」により、モデル就業規則は、下記のとおり許可制から届出制に改正になりました。

モデル就業規則 (令和4年 11 月版 厚生労働省労働基準局監督課)
(副業・兼業)
第70条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

(5)モデル就業規則第70条の趣旨と留意事項

モデル就業規則第70条の解説では、条文の趣旨や副業・兼業の導入の際の留意事項が詳細に説明されています。
自社への副業・兼業の導入に当たっては、これを十分ご理解の上、また、自社の状況も踏まえて労使で十分に話し合い、的確に取組をされることが望まれます。

〇モデル就業規則第70条説明事項

1 本条は、副業・兼業に関するモデル規定であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければならないことから、副業・兼業の導入の際には、労使間で十分検討するようにしてください。副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできません。この「副業・兼業」については、他の会社等に雇用される形での副業・兼業のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含むことに留意が必要です。なお、労働契約であるか否かは実態に基づいて判断されます。労基法の労働時間規制、安衛法の安全衛生規制等を潜脱するような形態や、合理的な理由なく労働条件等を労働者の不利益に変更するような形態で行われる副業・兼業は、認められず、違法な偽装請負の場合や、請負であるかのような契約としているが実態は労働契約だと認められる場合等においては、就労の実態に応じて、労基法等の規定の適用を受けることになります。

2 労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されていることから、第1項において、労働者が副業・兼業できることを明示しています。
なお、どのような形で副業・兼業を行う場合でも、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいです。

3 労働者の副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか(※1)、長時間労働を招くものとなっていないか等を確認するため、第2項において、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握することを規定しています。特に、労働者が自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、労基法第38条等を踏まえ、労働者の副業・兼業の内容等を把握するため、次の事項を確認することが考えられます。
・ 他の使用者の事業場の事業内容
・ 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
また、労働時間通算の対象となるか否かの確認を行い、対象となる場合は、併せて次の事項について確認し、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが考えられます(※2)。
・ 他の使用者との労働契約の締結日、期間
・ 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
・ 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
・ 他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
・ これらの事項について確認を行う頻度
※1 副業・兼業の開始後に、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること、副業・兼業を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起すること等が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月及び令和4年7月改定)に記載されていますので、ご参考ください。
※2 副業・兼業を行う場合の労働時間管理については、「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2年9月1日付け基発0901第3号)に、労働時間の通算や簡便な労働時間管理の方法について考え方を示していますので、その考え方に基づき通算を行うことになります。
(参考)
・労基法
第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
・昭和23年5月14日付け基発第769号
「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。

4 裁判例では、労働者の副業・兼業について各企業の制限が許される場合は、第2項各号で規定したような場合であることが示されていると考えられます。
各号に該当するかどうかは各企業で判断いただくものですが、就業規則の規定を拡大解釈して、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することのないよう、適切な運用を心がけていただくことが肝要です。また、第1号(労務提供上の支障がある場合)には、副業・兼業が原因で自社の業務が十分に行えない場合や、長時間労働など労働者の健康に影響が生じるおそれがある場合、労基法第36条第6項第2号及び第3号に基づく時間外労働の上限規制(時間外労働及び休日労働の合計の時間数について、1か月100時間未満及び2~6か月平均80時間以内とすること)や自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7号)等の法令等に基づく使用者の義務が果たせないおそれがある場合が含まれると考えられます。裁判例でも、自動車運転業務について、隔日勤務に就くタクシー運転手が非番日に会社に無断で輸出車の移送、船積み等をするアルバイトを行った事例において、「タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情を考えると、本件アルバイトは就業規則により禁止された兼業に該当すると解するのが相当である」としたものがあることに留意が必要です(都タクシー事件 広島地裁決定昭和59年12月18日)。
なお、就業規則において、副業・兼業を行うことや、その内容・労働時間等についての労働者からの届出を定めていた場合に、労働者から届出がなされずに副業・兼業が行われたことを把握したときについては、まず、労働者に届出を求め、本条第2項各号で規定したような場合に該当しないかの確認や、該当しない場合であって労働時間の通算の対象となるときにおいては、他の使用者の事業場における所定労働時間等の確認を行い、適切に、労働時間の管理を行いつつ、労働者が副業・兼業を行うことができるようにすることが望ましいです。
(出所:「モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課」)

6ガイドラインで示された副業・兼業を始める前に労働者がすべきこと-届出

〇 労働者は、副業・兼業を希望する場合は、まず、自身が勤めている会社の副業・兼業に関するルールを確認しましょう。
〇 副業・兼業の選択にあたっては、企業がホームページ等で公表している副業・兼 業に関する情報を参考にすることや、適宜ハローワークも活用し、自社のルールに照らして業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業先を選択することが重要です。
〇 副業・兼業先が決まったら、就業規則等に定められた方法にしたがい、会社に副業・兼業の内容を届け出ましょう。(参照届出様式例)

〇副業・兼業に関する届出様式例

副業・兼業に関する届出様式例
(出所:厚生労働省 「副業・兼業に関する各種様式例」)

7副業・兼業を始める前に使用者がすべきこと-副業・兼業の内容の確認

〇 使用者は、当然には労働者の副業・兼業を知ることができないため、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認することが考えられます。
〇 使用者は、副業・兼業が労働者の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、副業・兼業の内容を確認し、その結果、その内容に問題がない場合は、合意書を作成し、当事者双方に疑義のないようにしておくことが大事です。

〇確認事項

ガイドラインで示された副業・兼業

(※1)
労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に 関する規定の適用については通算する。」と規定されており、また、「事業場を異にする場合」と は事業主を異にする場合をも含むとされています。 労働者が行う副業・兼業の形態によっては、企業は労働者の副業・兼業先の労働時間も通算して管理する必要が生じますので、副業・兼業の内容を事前に労使双方でしっかり確認することが重要です。 なお、労働時間通算の対象とならない場合においても、過労等により業務に支障を来さないよう、対象者からの申告等により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいです。

(※2)
労働者の副業・兼業先での勤務時間等を確認するにあたっては、短時間やシフト制の副業・兼業を行う労働者の状況も分かりやすくなるように以下のようなカレンダー形式で確認することも有効です。

ガイドラインで示された副業・兼業

(※3)
副業・兼業に関する確認事項を確認する頻度については、たとえば、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)の切り替え時期に合わせるなどにより、定期的に確認することが考えられます。

〇副業・兼業に関する合意書様式例

副業・兼業に関する合意書様式例1
副業・兼業に関する合意書様式例2
副業・兼業に関する合意書様式例3

こちらにWordファイルを掲載していますので、ぜひご活用ください。
URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000692485.docx

(出所:厚生労働省 「副業・兼業に関する各種様式例」)

8副業・兼業時の労働時間の通算のポイント(1)―原則的な労働時間通算

(1)副業・兼業時の労基法における労働時間等の考え方

①通算の必要性
労基法第 38 条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。(労働基準局長通達(昭和 23 年5月 14 日基発第 769 号))
このため、労働者がA事業場でもB事業場でも雇用される場合には、原則として、その労働者を使用する全ての使用者(A事業場の使用者Aと、B事業場の使用者Bの両使用者)が、A事業場における労働時間とB事業場における労働時間を通算して管理する必要があります。

②通算の結果により留意すること
労働時間を通算した結果、労基法第 32 条又は第 40 条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、
使用者は、自社で発生する法定時間外労働について、同法第 36 条に定める「時間外労働・休日労働に関する協定」を労働者代表と締結し、あらかじめ労働基準監督署長に届け出る必要があります。
また、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数が、同法第36 条第6項第2号及び第3号に定める時間外労働の上限規制の範囲内となるようにする必要があります。
加えて、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数のうち自ら労働させた時間について、同法第 37 条第1項に定める割増賃金を支払う必要があります。

(2)労働時間通算の原則的な手順

ステップ①:所定労働時間の通算
□ 所定労働時間は、契約の先後の順に通算します。

労働時間通算の原則的な手順1

⇒ 通算の結果、月曜、金曜で、使用者Bの所定労働時間のうち1時間が法定労働時間 (1日8時間)を超えており、法定外労働に該当します。

ステップ②:所定外労働時間の通算
所定外労働時間は、実際に所定外労働が行われた順に通算します。

労働時間通算の原則的な手順2

⇒ 通算の結果、火曜では、使用者Bの所定外労働1時間が、木曜では使用者Aの所定外労働のうち1時間が、それぞれ法定労働時間(1日8時間)を超えた労働に当たり、法定外労働に該当します。
※所定労働時間…事業場で定められた労働時間であり、法定労働時間とは異なる場合があります。
※所定外労働時間…所定労働時間を超えて働いた時間であり、法定労働時間である1週40時間、1日8時間を超えるまでは法律上、36協定の締結、届出や、割増賃金の支払いの義務は発生しません。

(3)特別な労働時間制における労働時間通算

変形労働時間制・みなし労働時間制・フレックスタイム制等特別な労働時間制における労働時間通算については、以下のとおり。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf
「副業・兼業における労働時間の通算について(労働時間通算の原則的な方法)」

9副業・兼業時の労働時間の通算のポイント(2)―簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)

(1)趣旨

簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)の趣旨については、令和2年9月1日付け基発0901第3号で、
「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方については上記(注:原則的な労働時間通算)のとおりであるが、例えば、副業・兼業の日数が多い場合や、自らの事業場及び他の使用者の事業場の双方において所定外労働がある場合等においては、労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴うことが考えられる。
このため、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方について、上記によることのほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(以下「管理モデル」という。)として、以下の方法によることが考えられること。」
とされています。

(2)基本的な考え方

●労働者が使用者A(先契約)と使用者B(後契約)で、雇用契約による副業・兼業を行う場合、使用者Aの「法定外労働時間」(1週40時間、1日8時間を超える労働時間)と使用者Bの「労働時間」について、それぞれ上限を設定します。
●管理モデルの導入後、使用者Bは、使用者Aでの実際の労働時間にかかわらず、自社での「労働時間全体」を「法定外労働時間」として、割増賃金を支払います。

副業・兼業時の原則的な労働時間通算と管理モデルの違い
(例)使用者A(先契約):①所定労働時間7時間、③所定外労働1時間(先労働)
使用者B(後契約):②所定労働時間1時間、④所定外労働1時間(後労働)の場合

副業・兼業時の原則的な労働時間通算と管理モデルの違い

(3)管理モデルの導入方法

●労働者が副業・兼業を希望する場合、使用者A(先契約)が、副業・兼業先の使用者B(後契約)に管理モデルの導入を提案することを想定しています。
●使用者Aから使用者Bに直接連絡する必要はなく、労働者を通じて導入を提案することも可能です。

管理モデルの導入方法

(4)労働時間の上限規定

●使用者A(先契約)の事業場の1か月の法定外労働時間と、使用者B(後契約)の事業場の1か月の労働時間を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内で、各々の事業場での労働時間の上限をそれぞれ設定します。

上限設定手順①:使用者Aの法定外労働時間と使用者Bの労働時間の合計の範囲を決めます
上限設定手順②:設定した合計の範囲内かつ、それぞれの事業場の36協定の範囲内で、それぞれの労働時間の上限を決めます

労働時間の上限設定

(5)留意事項

使用者、労働者ともにご留意いただきたいこと
副業・兼業の開始後のトラブル防止のため、管理モデルの実施にあたっては、各使用者と労働者の3者間で管理モデル導入(通知)様式例等を参考に、必要な情報の共有を行うようにしてください。
管理モデルの導入方法■具体例都道府県労働局管理モデル導入(通知)様式例の余白に、以下(例)のような記載欄を設けることで、副業・兼業先の使用者が管理モデルの導入に応じたことを明らかにすることができます。
(例)労働者■■ ■■について、管理モデルの導入に応じます。
なお、当社における労働時間の上限(B)は△△時間とします。(副業・兼業先)××株式会社担当●●

(6)管理モデル(簡便な労働時間管理の方法)の導入(通知)様式例
〇管理モデルの導入様式例

管理モデルの導入様式例
(出所:厚生労働省 「副業・兼業に関する各種様式例」)

10健康管理

(1)健康管理

使用者は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働安全衛生法第66条等に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等(以下「健康確保措置」という。)を実施しなければなりません。
また、健康確保の観点からも他の事業場における労働時間と通算して適用される労基法の時間外労働の上限規制を遵守することが必要です。
また、時間外労働の上限規制を超えない範囲内で自らの事業場及び他の使用者の事業場のそれぞれにおける労働時間の上限を設定する形で副業・兼業を認めている場合においては、自らの事業場における上限を超えて労働させないことも注意が必要です。

〇健康診断とストレスチェックの留意点

労働安全衛生法第66条に基づく一般健康診断及び第66条の10に基づくストレスチェックは、常時使用する労働者(常時使用する短時間労働者を含む。)が実施対象となります。
この際、常時使用する短時間労働者とは、短時間労働者のうち、以下のいずれの要件をも満たす者です(平成26年7月24日付け基発0724第2号等抜粋)。
・ 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)
・ 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の3/4以上である者

(2) 健康確保措置の対象者

健康確保措置の実施対象者の選定に当たって、副業・兼業先における労働時間の通算をすることとはされていません。
ただし、使用者の指示により当該副業・兼業を開始した場合は、当該使用者は、原則として、副業・兼業先の使用者との情報交換により、それが難しい場合は、労働者からの申告により把握し、自らの事業場における労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当です。

〇事後措置等

使用者は、上記の健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者や、ストレスチェックの結果高ストレスと判定され医師による面接指導を受けた労働者については、労働安全衛生法第66条の4、第66条の5及び第66条の10に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について医師等の意見を聴取し、必要があると認めるときは当該労働者の実情を考慮して、
① 就業場所の変更
② 作業の転換
③ 労働時間の短縮
④ 深夜業の回数の減少
等の適切な措置を講じなければなりません。

(3)健康確保措置等の円滑な実施につていの留意点

使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えること、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施することなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することが適当です。また、副業・兼業を行う者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、例えば、自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制等を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うことが適当です。
さらに、使用者の指示により当該副業・兼業を開始した場合は、実効ある健康確保措置を実施する観点から、他の使用者との間で、労働の状況等の情報交換を行い、それに応じた健康確保措置の内容に関する協議を行うことが適当です。

11副業・兼業に関する情報の公表

企業は、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、自社のホームページ等において公表することが望ましいとされています。

〇自社のホームページで公表する場合の記載例

[例]副業・兼業について条件を設けず、許容している場合
●弊社では、従業員が副業・兼業を行うことについて、条件を設けることなく、認めています。
[例]副業・兼業について条件を設けて、許容している場合
● 弊社では、従業員が副業・兼業を行うことについて、原則認めています。ただし、長時間労働の回避をはじめとする安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務及び誠実義務の履行が困難となる恐れがある場合には、認めていません。

12ガイドラインで示された「労働者の対応」

(1)副業・兼業を希望する場合

労働者は、副業・兼業を希望する場合にも、まず、自身が勤めている企業の副業・兼業に関するルール(労働契約、就業規則等)を確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要があります。例えば労働者が副業・兼業先の求職活動をする場合には、就業時間、特に時間外労働の有無等の副業・兼業先の情報を集めて適切な就職先を選択することが重要です。
なお、適切な副業・兼業先を選択する観点からは、自らのキャリアを念頭に、企業が自社のホームページ等において公表した副業・兼業に関する情報を参考にすることや、ハローワークにおいて求人内容の適法性等の確認作業を経て受理され、公開されている求人について求職活動を行うこと等も有効です。
また、実際に副業・兼業を行うに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることも重要です。

(2)副業・兼業を行う場合の留意事項

副業・兼業を行うに当たっては、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、労働者(管理監督者である労働者も含む。)が、自ら各事業場の業務の量やその進捗状況、それに費やす時間や健康状態を管理する必要があります。
また、他の事業場の業務量、自らの健康の状況等について報告することは、企業による健康確保措置を実効あるものとする観点から有効です。

(3)ツールの活用による自己管理

労働者は、使用者が提供する健康相談等の機会の活用や、勤務時間や健康診断の結果等の管理が容易になるようなツールを用いることが望ましいといえます。始業・終業時刻、休憩時間、勤務時間、健康診断等の記録をつけていくような民間等のツールを活用して、自己の就業時間や健康の管理に努めることが考えられます。
厚生労働省でも、労働者が自ら、本業及び副業・兼業の労働時間や健康状態を管理できる機能がある「マルチジョブ健康管理ツール」アプリを無料で提供しています。このようなツールを活用して自律的に管理をされることをお勧めします。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

(4)確定申告

副業・兼業を行い、20万円を超える副収入がある場合は、企業による年末調整ではなく、個人による確定申告が必要です。

13副業・兼業に関わるその他の制度(1)-労災保険

(1)労災保険制度の改正

労災保険制度は、①労働者の就業形態にかかわらず、②事故が発生した事業主の災害補償責任を担保するものです。このため、副業・兼業をする者にも労災保険は適用されます。
また、副業・兼業をする者への労災保険給付額については、労働者災害補償保険法が改正(令和2年9月1日施行)され、全就業先の賃金を算定基礎とすることとなりました。

(2)複数事業労働者―改正制度の対象

法改正の対象となるのは、複数事業労働者の方です。
「複数事業労働者」とは、被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方のことをいいます。

複数事業労働者に関する原則の具体例

○改正後の労災保険法

第1条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。(下線:筆者)

*特別加入をしている方などについても対象となります。

(3)複数事業労働者の方への保険給付が、全ての働いている会社の賃金額を基礎に支払われるようになります。

今回の改正によって、複数事業労働者の方については、各就業先の事業場で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額(保険給付の算定基礎となる日額)が決定されます。

賃金額の合算具体例

(4)複数の会社等の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになります。

今回の改正によって、新しく複数の事業の業務を要因とする傷病等(負傷、疾病、障害又は死亡)についても、労災保険給付の対象となります。新しく支給事由となるこの災害を「複数業務要因災害」といいます。なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。
複数事業労働者の方については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか判断します。これにより労災認定されるときには、上記の「複数業務要因災害」を支給事由とする各種保険給付が支給されます。

賃金額の合算具体例

(5)今回の制度改正はメリット制に影響しません。

労災保険には、各事業場の業務災害の多寡に応じ、労災保険率又は保険料を増減させるメリット制があります。
今般の制度改正については、メリット制には影響せず。業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します。

14副業・兼業に関わるその他の制度(2)-雇用保険

雇用保険制度において、労働者が雇用される事業は、その業種、規模等を問わず、全て適用事業(農林水産の個人事業のうち常時5人以上の労働者を雇用する事業以外の事業については、暫定任意適用事業)です。このため、適用事業所の事業主は、雇用する労働者について雇用保険の加入手続きを行わなければなりません。
ただし、同一の事業主の下で、
①1週間の所定労働時間が20時間未満である者
②継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
については被保険者となりません(適用除外)。
また、同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となりますが、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により、令和4年1月より65歳以上の労働者本人の申出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されました。

○雇用保険の適用の例

雇用保険の適用の例

15副業・兼業に関わるその他の制度(3)-社会保険

社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所毎に判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、適用されません。
また、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所及び医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)することとなります。

○社会保険の適用

社会保険の適用事業所に使用されており、次の(ア)~(ウ)のいずれかに該当する人は被保険者となります。
(ア) 正社員や法人の代表者、役員
(イ) 1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である人(パートタイマー、アルバイト等)
(ウ) 正社員の4分の3未満の短時間労働者であって、従業員101人以上の事業所(注)において、週所定労働時間20時間以上、所定内賃金月額8.8万円以上等の一定の要件を満たす人

なお、100人以下の事業所であっても、短時間労働者の適用について労使合意があれば、従業員101人以上の事業所と同様の取扱いとなります。
(注)令和6年10月以降は51人以上の事業所

16最近の裁判例-大器キャリアキャスティングほか1社事件(大阪高判令4.10.14労働判例1283号44頁)

○長時間労働の安全配慮義務違反の可否が問題となった裁判例

大阪高裁で、本業の会社の安全配慮義務違反を認めた事案です。
本業の会社が副業の会社における労働時間を認識しあるいは認識できる状況にあったという点から、本業の会社に労働契約上の安全配慮義務違反があると判断されたものです。

○大器キャリアキャスティングほか1社事件

【本件の論点】
本件は、長時間労働によって精神疾患にり患した場合、労災給付のほかに、本業である大器CCに対する関係での安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の問題、兼業であるA社に対する関係での安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が問題となります。
【事案の概要】
○労働契約の先後関係と所定労働時間
労働契約関係はかなり複雑で、まず会社の関係ですが、A社が給油所を運営していましたが、A社は深夜早朝時間帯における給油所の運営業務を大器株式会社(以下「大器」)に委託していました。大器はそれをさらにその100%子会社の大器キャリアキャスティング(以下「大器CC」)に再委託していました。原告となった労働者は、もともとは派遣会社Gに雇用されて大器CCの運営するD給油所で就労していました。G社との間の労働契約は有期契約で平成25年3月22日から平成26年3月31日まででしたが、当時の労働者派遣法の同一事業所での同一業務への人材派遣の最長3年(労働者派遣法40条の2第2項)が経過してしまうため、平成26年1月1日以降は、Gからの申入れにより大器が100%子会社である大器CCを設立して、原告労働者を含む派遣労働者を同社で雇用することとなり、原告労働者XとGとの労働契約は平成26年1月31日に終了し、原告Xは大器CCと期間の定めのある労働契約を締結します。期間は、平成26年2月1日から同年3月31日までで、所定労働時間は深夜早朝の時間帯です。具体的には、午後10時から翌日午前2時までの所定労働時間4時間のシフトと午後10時から翌日午後7時までの所定労働時間8時間(休憩時間1時間)のシフトのいずれかが指定され、休日は少なくとも毎週1日というものです。この契約は、平成26年3月28日契約によって更新され、期間は同年4月1日から平成27年3月31日までとされています。
そして、当初の大器CCとの契約が締結された平成26年2月1日の後の平成26年2月21日、原告Xは、給油所を運営していたA社(後にENEOSに合併される)との間でやはり労働契約を締結します。就業場所は大器CCと同一で、労働時間は午前7時から午後10時まで、勤務日は月11日以上15日以内(月80時間以上120時間未満)です。ですから、契約締結時期としては、大器CCが先で、A社が後ということになります。
○労働者Xは日中、夜間を通じて、当初は派遣労働者として、次いで、A社―大器(夜間業務)―大器CC(夜間業務全部)という下請けの構造の中で、孫請けの労働者として、セルフ式ガソリンスタンドで就労していて、同じ仕事をしていたということになります。仕事の内容は、セルフスタンドでの顧客に対する監督業務でした。

○精神障害の発症 平成26年3月下旬ころ、Xが兼業をしていることを大器CCが認識し、同会社は、Xが長時間労働となってしまい、休日もとれなくなることから、5月中旬までにはA社での就労をやめるとの約束を取り付けています。
ただ、Xが現実にA社を退職したのは、6月30日のことで、医療機関の受診をしたのは平成26年7月1日のことでした。その時点のXの医師への説明としては、過労による心と身体の不調、平成26年1月27日から7月1日現在、連続勤務による疲労困憊というもので、診断名としては、「抑うつ神経症、不眠症、統合失調症」といったものです。以降、Xは同一のクリニックに通院をしています。

○労働時間(認定された労働時間)

大器CC関係 A社関係 合計
労働時間数 休日数 労働時間数 労働時間数 休日数
欠勤前1か月
H26.6.3~7.2
279時間45分 24時間 303時間45分 4日
欠勤前2ヶ月
H26.5.4~6.2
255時間15分 4日 15時間 270時間15分 4日
欠勤前3か月
H26.4.4~5.3
259時間 4日 12時間 271時間 4日
欠勤前4か月
H26.3.5~4.3
256時間30分 3日 12時間 268時間30分 3日
欠勤前5か月
H26.2.3~3.4
250時間45分 0日 6時間 256時間45分 0日
欠勤前6か月
H26.1.4~2.2
244時間 0日 244時間 4日
○就業規則
大器CCの就業規則には兼業禁止の規定はあり、「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇用されないこと」が「遵守事項」として規定されています。

【安全配慮義務違反の判断】
●1審の判断(大阪地判令3.10.28労働判例1257号17頁)―違反を認めず
「被告Y1(注 大器CC)及びA社との労働契約に基づく原告の連続かつ長時間労働の発生は,原告の積極的な選択の結果生じたものであるというべきであり,原告は,連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。・・・他方,被告Y1としては,いかに上述した契約関係に基づいて24時間営業体制が構築されているとはいえ,原告とA社の労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にあるものでもない・・・加えて,・・・B(注 大器CCのエリアマネージャー)は原告に対し,労働法上の問題のあることを指摘し,また,原告自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上,原告に同年5月中旬までにはAの下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなど,本件に表れた諸事実を踏まえると,被告Y1が原告との労働契約上の注意義務ないし安全配慮義務に違反したとまでは認められない。」

●控訴審判決―違反を認めた
「被控訴人Y1(注 大器CC)において、その勤務シフトは、同一店舗に勤務する従業員間でシフト表の案を作成し、B(エリアマネージャー)が各店舗を巡回した際にそのシフト表の案を確認し、承認をするという仕組みの下、その内容が確定されていたこと、Bが勤務シフト調整のための面談に立ち会うなどしていたことに照らせば、Bは、被控訴人Y1との労働契約に基づく控訴人の労働日数及び労働時間数を認識し、あるいは認識し得る立場にあったと解される。」「被控訴人Y1は、Aに問合せをするなどして、Aとの労働契約に基づく控訴人の労働日数及び労働時間について把握できる状況にあったのであるから、控訴人のAにおける兼業は、従業員が勤務時間外の私的な時間を利用して雇用主と無関係の別企業で就労した場合(雇用主が兼業の状況を把握することは必ずしも容易ではない場合)とは異なるということができる。」として、本件の特色を指摘します。そのうえで、「被控訴人Y1は、控訴人との間の労働契約上の信義則に基づき、使用者として、労働者が心身の健康を害さないよう配慮する義務を負い、労働時間、休日等について適正な労働条件を確保するなどの措置を取るべき義務(安全配慮義務)を負うと解されるところ、上記のような事実関係によれば、控訴人は被控訴人ら両名との間の労働契約に基づいて、157日という長期間にわたって休日がない状態で、しかも深夜早朝の時間帯に単独での勤務をするという心理的負荷のある勤務を含む長時間勤務(・・・)が継続しており、被控訴人Y1は、自身との労働契約に基づく控訴人の労働時間は把握しており、業務を委託していた被控訴人Y2(注 A社)との労働契約に基づく就労状況も比較的容易に把握することができたのであるから、控訴人の業務を軽減する措置を取るべき義務を負っていたというべきである。」とし、「しかるに、被控訴人Y1は、平成26年3月末頃には控訴人がAとの兼業をしている事実を把握したにもかかわらず、兼業の解消を求めることはあったものの、控訴人のAにおける就労状況を具体的に把握することなく、同年7月2日に至るまで上記のような長時間の連続勤務をする状態を解消しなかったのであるから、控訴人に対する安全配慮義務違反があったと認められる。」と判断しています。

労働者Xが長時間労働を自ら招いていたとの点について、「控訴人の連続かつ長時間労働の発生は、控訴人の積極的な選択の結果生じたものであることは否定できず、控訴人は、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。しかしながら、使用者である被控訴人Y1には、労働契約上の一般的な指揮命令権があるのであり、控訴人が法の趣旨に反した長時間かつ連続の就労をしていることを認識した場合には、直ちにそのような状態を除去すべく、Bが控訴人の希望する被控訴人Y1における勤務シフトを承認しない等の措置をとることもできたのであるから、上記のような控訴人による積極的な行動があったことは、安全配慮義務違反の有無の判断を直接左右するとはいえず、過失相殺の有無・程度において考慮されるにとどまるというべきである。」とも判断しています。

実際問題として、兼業によって、「控訴人は連続かつ長時間労働をしていたものであり、被控訴人Y1とAの下での勤務を合わせると、平成26年1月26日(日曜日)を最後に、同年2月2日(日曜日)以降、休日が全くないことは(・・・)、労働者の疲労回復とともに余暇の保障をすべく休日の付与について定めた労働基準法35条の趣旨に反する状態が長期にわたって継続したということができる。」「殊に、被控訴人Y1とAの下での各労働時間数を合計した労働時間数は、欠勤前4か月以降、1か月当たり約270時間になる月が連続し、欠勤前1か月は303時間45分に至っており(・・・)、長時間労働による労働者の健康障害の防止を図るべく労働時間の上限について定めた労働基準法32条の趣旨に反する状態が現出しているということができる。」とも言われているように、長時間労働の実態をよく見ている判決だと思います。

【過失相殺】
判決では、連続的な長時間労働となったのは労働者の側の積極的な行動があったこと、それは安全配慮義務違反の有無の判断を直接左右するとはいえず、過失相殺の有無・程度において考慮されると判断されていましたが、結局本件では、4割もの過失相殺がされています。兼業をするかどうか、どの程度するかは労働者の自由に委ねられていることもあり、兼業による長時間労働、それによる疾病という因果関係があれば、本件のように4割もの過失相殺をされることもあります。

【兼業先の安全配慮義務】
兼業先A社は、安全配慮義務違反も不法行為責任も認められませんでした。判決は、次のように判断して、A社の安全配慮義務違反を否定しています。
「控訴人は、週3日間程度、Aとは資本関係等がない同業の競合他社である訴外E社が運営していたF店においても勤務していたものであり、A社において、控訴人のF店における労働時間等を当然に把握していたものではない。」「Aにおいて積極的に他企業である被控訴人Y1における控訴人の就労状況を把握すべきであったということはできない。」「仮に何らかの事情の下、A社関係者が、控訴人のF店での労働日数や労働時間数を認識していたとしても、A社において、契約関係がない訴外E社に対して控訴人の労働時間を調整するための何らかの権限があるわけではない。」「本件に表れた一連の経過を踏まえると、Aにおいて控訴人の連続かつ長時間労働に関して不法行為責任を負ったり、労働契約上の安全配慮義務違反があるとまでは認められない。」

*本件は、有期労働契約の更新拒絶の問題もありましたが、割愛します。