職場における労働者のメンタルヘルスケアは、国の指針(※)において、次の3つに分けられています。
※「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日付け心の健康保持増進のための指針公示第3号 平成27年11月30日一部改正)
一次予防:メンタルヘルス不調となることを未然に防止すること
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切に対応を行うこと
三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等をすること
ストレスチェック制度は、これらの取組のうち、特に一次予防を強化するものです。メンタルヘルス不調の発見を目指すものではありません。
メンタルへルスケアの取組みは、次の4つのケアが基本となります。
ストレスチェック制度では、労働者自身がストレスチェックの結果を見て自分のストレスの状態に気づき、これに対処する①セルフケアを促すことがまず大切になります。
また、ストレスチェックの集団分析の結果等を踏まえ、②ラインによるケアを含む職場環境改善に取り組むことが重要です。さらに、必要に応じて、医師による面接指導のほか、③事業場内産業保健スタッフ等によるケアや④事業場外資源によるケアにより労働者の相談等を受けることができる制度や体制を事業場の実態に応じて整えることが効果的です。
また、職場において4つのケアを進めていくためには、教育研修・情報提供が重要です。
こうした取組を通じて、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目指します。
ストレスチェック制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があり、ストレスチェック及びその結果に基づく面接指導等を毎年1回実施することが必要です。また、ストレスチェック結果を集団ごとに集計・分析し、その結果等を踏まえた職場環境改善の実施も努力義務となっています。
事業場は、企業全体を意味するものではなく、本社・支店・工場などの単位です。36協定の締結単位や、安全衛生管理体制の単位と同じです。
50人以上かどうかの判断も衛生管理体制等の適用と同じで、週1回勤務の労働者も含めた常態として使用する労働者をカウントします。
一方、事業者がストレスチェックを実施しなければならない対象者は「常時使用する労働者」です。契約期間が1年未満の労働者や1週間の所定労働時間の短い労働者は、健康診断同様、ストレスチェック実施義務の対象外となる場合があります。なお、労働者に対してはストレスチェックの受検は義務づけられていません。
派遣労働者については、派遣元事業者に実施義務があります。
制度の流れは、次の図のとおりです。
ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ
まず、事業者が「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を示すところから始まります。事業者として方針を表明することで、衛生委員会の委員などが活動しやすくなりますし、労働者の理解も深まります。
次に、情報の収集を始めます。
厚労省の『ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等』から、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(以下「実施マニュアル」という。)などの情報が入手できます。
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また、厚労省の『こころの耳』の『(ストレスチェック制度について)』にも様々な情報が掲載されています。
衛生委員会等で実施方法などについて調査審議を行います。調査審議すべき事項としてストレスチェック指針(平成27年4月15日心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号 平成27年11月30日及び平成30年8月22日一部改正)では、次の事項を挙げています。
調査審議で決定したことを社内規程にし、労働者に周知します。規程例は下記のホームページで入手できます。
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「規程」という名称でなくても構いませんし、「心の健康づくり計画」の一部にすることもできます。
制度を運用するために、次の役割を決めます。
役割は、兼務することもできますし、一つの役割に複数の者を選任することもできます。
ストレスチェックの実施に当たって、実施計画の策定、実施者や委託先の外部機関との連絡調整、実施計画に基づく実施の管理等の実務を担当します。衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者などが望ましいとされています。ストレスチェック結果等の個人情報を取り扱わないので、人事の権限のある者(解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者)を指名することも可能です。
ストレスチェックの実施に当たって、当該事業場におけるストレスチェックの調査票の選定や、調査票に基づくストレス程度の評価方法、高ストレス者の選定基準の決定について事業者に対して専門的な見地から意見を述べるとともに、ストレスチェックの結果を踏まえて労働者が医師による面接指導を受ける必要があるか否かを確認する等の業務を担当します。
実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師の中から選ぶ必要があります。平成27年11月30日時点で、3年以上労働者の健康管理等の業務に従事した経験のある看護師・精神保健福祉士は研修を受けなくても実施者になることができます。研修の開催予定は、厚生労働省ホームページで紹介されています。
実施者には、事業場の産業医が推奨されています。
また、複数の実施者をたて、共同実施者とすることができます。このときは、代表実施者を定めることが勧められています。
なお、人事の権限のある者は実施者にはなれません。
調査票の回収・集計・入力や受検者との連絡調整等の実施の事務について、実施事務従事者に行わせることができます。必ず選任する必要はありません。
実施事務従事者は、資格等の要件はありませんが、人事の権限のあるものはなれません。複数の者を選任しても構いません。
面接指導を実施する医師としては、事業場の産業医や事業場において産業保健活動に従事している医師が推奨されます。また、面接指導の実施を外部の医師に委託する場合であっても、産業医資格を有する医師に委託することが望ましいとされています。
常時50人未満の労働者を使用する事業場で面接指導を実施する場合は、産業医資格を有する医師のいる産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)を利用することが可能です。
健康診断とは違い、ストレスチェックには労働者に受検の義務はありません。受検の有無の情報は、事業者に開示することが認められています。未受検の労働者に対する勧奨は必要ですが、強制にならないよう注意が必要です。
ストレスチェックの調査票は、次の3つの項目が含まれているものを、実施者の意見や衛生委員会の調査審議を踏まえて選択すればよいことになっています。
「職業性ストレス簡易調査票」を用いることが望ましいとされています。
「職業性ストレス簡易調査票」の項目(57項目)
実施には、次のような方法が考えられます。
①紙面の調査票を使い、集計する方法
調査票を印刷・配布し、回収します。配布は誰が行っても差し支えありませんが、回収の際は、記入の終わった調査票が周囲の者の目に触れないよう、封筒に入れてもらうなどの配慮が必要です。
なお、「職業性ストレス簡易調査票」を使用する場合は、厚労省のホームページから調査票をダウンロードできます。
②社内のイントラネットなどICTを利用して行う方法
労働者1人1人がIDを使って受検する方法です。
「職業性ストレス簡易調査票」を使用する場合は、厚労省が配布している「厚労省版ストレスチェック実施プログラム」(無料)を活用することができます。
『「厚労省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト』
なお、ICTを利用してストレスチェックを実施する場合は、以下の要件がすべて満たされている必要があります。
ストレスチェックの結果の集計は実施者又は実施事務従事者が行います。
集計の方法としては、表計算ソフトや手計算で個人ごとの数値を算出するほか、「職業性ストレス簡易調査票」を使用する場合は厚労省が配布している「厚労省版ストレスチェック実施プログラム」(無料)を活用することができます。
『「厚労省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト』
個人のストレスチェックの程度の評価に当たっては、点数化した評価結果を数値で示すだけではなく、ストレスの状況をレーダーチャートなどの図表でわかりやすく示すことが望ましいとされています。
高ストレス者の選定に当たっては、次の①又は②のいずれかの要件を満たす者とし、具体的な選定基準は実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて事業者が決定します。
ストレスチェックは、事業場の状況を日頃から把握している事業場の産業医等が実施することが望ましいとされていますが、必要に応じて全部又は一部を外部機関に委託することも可能です。委託の形は、集計のみを委託する方法、実施者も含めて委託する方法、など様々です。
外部機関に委託する場合は、ストレスチェックを適切に実施できる体制や、情報管理が適切に行われる体制が整備されているか等について、事前に確認することが望ましいとされています。確認のポイントが、『外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例』で示されています。
詳しくはこちら
労働者一人一人に結果を通知します。
本人のみに知らせるよう、プライバシーの保護が必要です。
結果の通知に当たっては、次の①~③は必ず通知しなければならないとされています。
これに加えて、セルフケアの重要性や、セルフケアのヒントや相談窓口などを提供している「こころの耳」の案内などを同時に伝えるのも効果的です。
また、医師による面接指導の対象者に対しては、
などを記載するとよいでしょう。
面接指導の申出窓口以外に、社内の産業保健スタッフや社外の契約機関などの相談窓口を設けている場合は、併せて情報提供すると効果的です。
ストレスチェックの結果について、個別のデータを事業者が入手するには、結果の通知と同時に、または事後に個々の労働者の同意をとる必要があります。事業者が結果の提供を求めないのであれば、当然、同意を取る必要はありません。
本人に通知するストレスチェック結果のイメージ
実施者が、高ストレスと判断された者のうち、医師による面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者を、面接指導の対象とします。
実施者である産業医や保健師等が、高ストレス者に対して、産業保健活動の一環として面談を実施し、その結果をもとに、ストレスチェック制度における医師による面接指導の対象者とする労働者を実施者が選定することも可能です。
上記8のとおり、面接指導対象者に対しては、結果通知の際、面接指導を申し出る方法などを伝えます。
労働者から面接指導の申出があった場合は、事業者は、申出を行った書面や電子メール等の記録を5年間保存することが望ましいです。
実施マニュアルでは、面接指導を申し出た場合にはストレスチェック結果を事業者に提供することに同意したものとみなすこととされていますが、基本的には、申出をした労働者からストレスチェック結果を提出させることとするのがよいでしょう。また、これは当該労働者が面接指導の対象者かどうかを確認するための対応であり、提出を求める情報は最低限にするとともに、面接指導対象者以外であっても面接指導を実施する場合などに必ずしも結果の提出を求める必要はありません。
医師による面接指導の申出を行わない労働者がいることも考えられます。このため、面接指導の申出という正式な手続き以外でも、日常的な活動の中での産業医による相談対応や、保健師、看護師、精神保健福祉士や産業カウンセラー、臨床心理士等の心理職等に相談できる窓口を用意し、高ストレス者が放置されないよう取り組むことが大切です。
面接指導を実施する医師は、事業場の産業医か事業場において産業保健活動に従事している医師が推奨されています。外部の医師に委託する場合も、産業医資格のある医師に委託することが望ましいです。
面接指導は、申出があってから概ね1月以内に実施する必要があります。
事業者は、面接指導を実施する医師に、あらかじめ、当該労働者について、次の情報を提供します。
医師が面接指導を行った後の意見書の作成等について、マニュアルが示されています。
「ストレスチェック制度における高ストレス者への医師による面接指導実施マニュアル」
面接指導結果に基づく医師の意見書の例
事業者は、面接指導を行った医師から、就業上の措置の必要性の有無及び講ずべき措置の内容、その他の必要な措置に関する意見を聴きます。
意見は、面接指導を実施した後、遅滞なく聴く必要があります。遅くとも1月以内には聴くようにしましょう。
集団ごとの集計・分析及び集団分析結果等に基づく職場環境改善の実施は、努力義務となっています。
集団分析結果と、当該部署の業務内容や労働時間など他の情報と合わせて評価し、職場環境改善につなげることによって、職場のストレスが低減され、生産性の向上につながる可能性があります。
10人未満の集団で分析する場合は、すべての合計点について集団の平均値だけを求めるなど、個人特定につながらない方法をとる必要があります。
集団ごとの集計・分析結果のイメージ
職場環境改善の手法については、実施マニュアルP.88~92に記載があります。
労働者50人以上の事業場では、1年以内ごとに1回、監督署に『心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書』を提出する必要があります。
報告書の提出時期は、事業場の事業年度の終了後など、事業場ごとに設定して差し支えありません。
報告書の様式は、ホームページからダウンロードできます。
次のことを理由に労働者に対して不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
ストレスチェックの結果のみを理由とした不利益な取扱いについても、行ってはいけません。
また、面接指導の結果を理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換・職位の変更を行うことは、禁止されています。
次の記録を5年間保存しなければなりません。
①ストレスチェックの結果については、事業者への提供に労働者の同意がある場合には、事業者が、同意がない場合には、実施者もしくは実施事務従事者が保存することになります。
また、集団分析の結果についても5年間保存することが望ましいとされています。
ストレスチェックについては、次の2つの条文に罰則の適用があります。
①については、ストレスチェックの実施者・実施事務従事者、面接指導の実施の事務に従事した者が、対象となります。
労働者50人未満の事業場については、ストレスチェックの実施は、当分の間、努力義務となっていますが、実施する場合には、法令等の遵守が求められています。
労働者50人未満の事業場について、面接指導を実施する場合、地域産業保健センターの活用が可能であるほか、助成金が活用できる場合があります。
ストレスチェックについては、次の相談ダイヤル等が設けられています。
実施に関する電話相談窓口
労働者等からの職場における心の健康問題に関する電話相談窓口